笑顔型の亀裂
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんが楽しんでいただければ幸いです。
翌朝――
安友は、両親と共に朝食をとっていた。
食卓には焼き立てのパンとスクランブルエッグ。部屋には静かなジャズが流れ、コーヒーの香りが立ち込める。
それは一見、どこにでもある平和で穏やかな朝だった。
リビングのテレビでは、朝のニュースが淡々と流れていた。
「……最終的に、政府は核兵器の生産を停止しない決定を下しました。」
キャスターの声は冷ややかで、感情を排した響きを持っていた。
画面には、スーツ姿の防衛大臣が映し出される。
『敵国やテロリストの脅威から我が国を守るためには、核兵器の存在が不可欠です。これは防衛上の“最低限の抑止力”なのです。』
その言葉に、一部の議員たちが笑みを浮かべ、盛大に拍手を送っていた。
「政府の勇気ある決断に、心から賛同します」とさえ言っていた。
安友の父は黙ってコーヒーをすすり、母はパンにバターを塗りながら一言も発さなかった。
誰もが理解していた。
それは「正義」などではなく、「恐怖」を飲み込む儀式のようなものだと。
誰も知らなかった。
拍手を送っていた議員たち――
彼らこそ、何十年も前から、世界中の政府を水面下で操ってきた存在なのだということを。
彼らは人間の姿をしていたが、人間ではなかった。
その頃、地球の裏側――
遥か一万一千キロ以上も離れた地の奥底、
黒く冷たい土の下で、巨獣たちが笑っていた。
それは“声”などではなく、
人間の精神すら侵食するような、呻きと嘲りの混じった音だった。
人類は、その存在を知らない。
知ることもない。
なぜなら、認識した瞬間、心が砕けるからだ。
だが、彼らは確かにそこにいた。
ただ、まだ“目覚めて”いないだけだった――。
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