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御法川愛の家のマンションを訪ね、オートロックを何度も呼び出すが応答はなかった。
御法川は母子家庭で父親は中学の時に離別しているので今は母親と二人暮らしだ。お母さんをいつか楽させてあげたい、と言ってたっけ。
今頃芸能事務所で、これからのことを話し合っているのかもしれない。
スマホで御法川の所属する芸能事務所を検索してみたが、連絡先は乗っておらず、今から押しかけていくのも迷惑だという頭が想太にはまだあった。
芸能活動がこれから本格化していくとしても、隠れて会ったり連絡を取り合うことはできるかもしれない。何をするにしてもとにかく御法川と一度話したかった。
日が暮れるまでマンションの前でスマホ片手に待っていたが、一向に御法川愛は帰ってくる気配がなかった。
代わりに声をかけてきたのは、彼女によく似た女性だった。
「天之河くんね、愛から聞いてるわ。愛の母でマネージャーをやっているの」
名刺を差し出される。
「はじめまして、御法川さんは、今どこに?少しだけでも話したいんです」
「ごめんなさいね、突然のことで。私たちも驚いているんだけど、今日の昼過ぎくらいから連絡が引っ切りなしにきてて。その対応で私たちもてんやわんやで。とりあえず一週間は学校休んで事務所近くのホテルに泊まって対応していくことになってね」
「あの、少しだけでも愛さんと話せませんか。LINEしても連絡つかなくて」
「天之河くん、今は愛にとって大事な時期なの。分かるでしょ?愛にとってあなたが必要な友達だったら、愛の方から連絡がいくと思うわ。だから、愛のこと大事な友達だと思ってくれるなら、今は待ってあげて…」
想太が言い返そうとしたところに御法川母のスマホがなる。
「はい、ええ、ほんと?いきなりCM?ええ、ええ、すぐ戻るわ…」
御法川母は想太を一瞥すると、手を振って足早に通りの方へ歩き出してしまう。
見送るしかない想太と違って、別の影が御法川母の後ろについていっていたことに想太は気づきもしないのであった。