⑥
御法川の周りに人だかりができているのはクラスの前を通っただけですぐに分かった。
ガロが駆け寄ってくる。
「おい、御法川すげーな」
「ん?なにがあったんだ?」
「これだよ、これ!1000万再生だってよ!」
見るとそれは御法川が有名漫画のワンシーンを切り取って演技しているショート動画だった。
想太の胸がチクリと疼く。
今までの2人だけの秘密が公然となっていくことの寂しさからだろうか。
動画の中の御法川が言う。
「最後まで…希望を捨てちゃいかん あきらめたらそこで試合終了だよ」
女子高生がお爺さん監督のセリフを説得力よく再現できたら面白いじゃんとアイデアを出したのは想太だった。
もう何ヶ月も前の動画だ。
それがなぜ今さらバズったのか…
学校内の盛り上がりも凄かったが、拡散は更なる拡散を呼ぶらしく、その日の放課後には3,000万再生で、トレンド入りまでしていた。もう既に後追い動画のように、他のタレントや女子高生がモノマネ投稿していたが、御法川ほどの説得力ある動画は見当たらなかった。
放課後、御法川のクラスを覗いたが既に下校していたのか姿は見えなかった。
速見と目が合ったが、速見の目に嘲るような自慢をするような色が見えて、想太は大いに不機嫌になったのだった。
生徒会室に入ると、四乃森朱里はくだんの動画を見ていた。
「これ、なに?なんのスポーツなの?女監督?」
「知らないんですか?国民的大ヒット漫画の名シーンですよ!こういう一番自分とは遠いキャラを演じることで演技に幅が出るんじゃないかと。まぁ、今さらバズったのはなんでかなって感じだけど」
「あぁ、それは私がアルゴリズムをちょっと調整した、チョロチョロっと。これで彼女は人気者。トントン拍子にスターダムに駆け上がっていくわ」
「なんでそんなことを」
「うーん、運命だから、かな。でも確定してたわけじゃないの。それこそ想太くんとあのままキスして、恋愛なんか始めていたら、売れるまでどのくらいかかったかわからないわ。私はちょーっと、パラメータをいじって、時間の針を進めただけ」
「そんなに僕と彼女のこと邪魔したいのか!」
想太が思わず怒鳴ると、四乃森朱里は首を振って答える。
「私だって、こんなことしたくないわよ。でもね、これは二人のためでもあるの。今は分からないかもしれないけど、必要なことなの。見てて、これから彼女は有名人になるわ。あなたはそれを影ながら見守るしかないの。できれば応援してあげて欲しいな」
「今までだって俺が一番応援してますから!」
生徒会室の外で部活動の声が遠く聞こえてた気がする。想太は取るもの取らずに駆け出していた。
御法川愛の元へ。彼女の家なら会えるかもしれない。その最後の希望を胸に。