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天之川想太(16)高二。本作の主人公?少なくとも中心人物。ヲタクでありおしゃべり。
御法川愛(16)高二。想太の恋人だったが、突然有名になり、二人は微妙な関係に。
四乃森朱里(17)高三。生徒会長。実は想太の恋を邪魔するために来た未来人。
槍ヶ岳ヒカリ(15)高一。インフルエンサーとしてフォロワー獲得に執念を燃やす。
小山内里菜(16)高二。イラスト絵師として、かなりの収入を既に得ている。
多賀康朗(17)高二。通称ガロ。想太の悪友。
翌朝、駅から学校までの通学路を想太は1人でトボトボ歩いていた。なぜだか御法川愛に送ったLINEは既読にならず、その後も何度か送った追いLINEも未読のままだ。
常ならば少し遠回りでも緑の多い公園の中を通って通学したりもするのだが、今朝は愛から返信もないことが気になって味気のない坂道を1人スマホ片手に何度もLINEを開いてはため息をついている。
「よぉ、想太。どうした?今の首相みたいに不景気そうな顔して」
失礼極まる発言。こういうことを言ってくる奴は1人しかいない。中学時代からの腐れ縁、通称ガロこと多賀康朗だ。
ガロは想太の肩に手を回す。
「なんだよ、ほんと時の首相みたいにブサイクな顔してるな」
「うっさいな、首相にも俺にも失礼だろ」
「そうか?日本の景気が良ければ首相の顔だって景気いいだろうし、お前如きが首相に例えられるなら、それはありがたいくらいなもんだろう」
「ほんと、ガロお前って人の心を逆撫でする名人だよな。よくそんなイヤな言葉がスラスラ出てくるよ」
「まぁ、お前には、人が羨む彼女がいるし、少しくらい毒舌かまされるくらいでバランス取れるってもんだろう」
「おい!ガロ!彼女のことは」
「分かってる分かってる。まだ秘密にしときたいんだろ。そうだよな、なんせ今が大事な時だもんな。こんな不景気顔の彼氏がいるなんて知られたら」
御法川愛は今売出し中の駆け出しタレントだ。活動も女優を始め、グラビア、ショート動画と活躍の幅を広げている大事な時期なのだ。
SNSの世の中、いつどこで炎上するか分からないから、交際には慎重を期さなければならない。
彼女の邪魔をするのは何より想太の気が済まないのだった。
それだからこそ昨日のような二人きりになれるチャンスは貴重だったのに。
人の恋路を邪魔する生徒会長の四乃森朱里は馬に蹴られて○ねばいいんだ、想太は思った。
御法川愛のことを一目でも見ようと、違うクラスの教室を廊下から覗き込むと、窓際の愛と目が合う。
ところが愛は気づかなかったのか、目をすぐに逸らすと机の中から教科書を取り出し、ペラペラとめくり始める。
想太はその態度に違和感を感じたが、予鈴がなり始めたので仕方なく自分のクラスに戻るしかなかった。
午前中の授業を終え、昼休みを迎えると想太は愛を探しに行こうと席を立った。
彼女は学食でクラスメイトと一緒に食事を取るのが常で、いつもなら昼休みに接触をはかることをはばかっていたのだが、昨日のこともあるので、そうも言ってられない。
学食に着くと、愛の姿を探す。高校にしてはオシャレなカフェテリアのような空間は女子人気も高く、彼氏を見つけて2人席に座るのが女子生徒たちの憧れだという。もちろん付き合う男はスクールカースト上位でなければならない。
ちなみに想太はスクールカーストに全く興味がない派、というか心の底から馬鹿にしている派だ。
ただ、御法川愛ほどの美少女になると周りが放っておかず、自然スクールカースト上位の奴らに取り込まれてしまうものらしい。
一見華やかな集団の中に愛を見つけて声をかける。
「御法川、ちょっといいかな?」
「どうしたの?天之河くん」
不思議そうに首を傾げる素振りで自然とカップルであることを否定する御法川愛の演技の上手さに感心しながら、そうも言ってられずに、
「あのさ、何度かLINEしたんだけどさ」
「え?そうなの?気づかなかった、ごめん」
と、そこに割り込んできたのはサッカー部のイケメンと言われている速見翔だった。
「おいおい、いきなりLINEとか、キモいことすんなよ!返事なんかするかよ、んなメッセージに」
スポーツしてると3割り増しくらいに評価が上がるみたいだが、この顔のどこがイケメンなんだろうか、想太は実は喧嘩っぱやい。
「言葉使いが汚いんだよ。俺と御法川の話に割り込んでくるんじゃねぇ、この蹴球脳筋野郎が」
想太もたいがい口が汚い。
「なんだと、この野郎!」
速見翔は立ち上がり、想太の胸ぐらを掴みにかかる。
愛はビックリしてしまったのか、大きな眼を見開いて固まっている。目が合うと小さく首を振って、
「ごめんなさい、ほんとにLINEきてないの。ほら、画面ないでしょ?」
胸ぐらを掴まれたまま横目でスマホの画面を見ると、確かに想太からのメッセージはどこにもない。
「なんだよ、お前の勘違いかよ、てか誤爆?とかマジだせーな」
こいつ、御法川に気があるな、よし、殺す。想太が目に殺意を込めて、拳を握ろうとしたところに、
「はいはい、そこまでそこまで」
想太の拳に手を置いて、生徒会長四乃森朱里が現れた。
想太と速見翔を引き離すと、
「食事どきに騒ぐものじゃないでしょ?せっかくの食事が冷めちゃう。ほら、君たちは食事に戻って。天之河くんは、私と生徒会室までご同行願おうかしら」
袖口を掴まれた想太はそのまま拉致され連行されていくのだった。