③
天之川想太(16)高二。本作の主人公?少なくとも中心人物。ヲタクでありおしゃべり。
御法川愛(16)高二。想太の恋人だったが、突然有名になり、二人は微妙な関係に。
四乃森朱里(17)高三。生徒会長。実は想太の恋を邪魔するために来た未来人。
槍ヶ岳ヒカリ(15)高一。インフルエンサーとしてフォロワー獲得に執念を燃やす。
小山内里菜(16)高二。イラスト絵師として、かなりの収入を既に得ている。
多賀康朗(17)高二。通称ガロ。想太の悪友。
「なんで俺と御法川の仲を邪魔する必要があるんですか?それに未来って」
カカリ気味の想太を手で制して、四乃森朱里は話し出す。
「私はね、そう遠くない未来から来た未来人なの。何年後かは言わないわ。守秘義務があるから。でも、とある特殊任務を持って、この時代にやってきたの。それが想太くんと御法川さんを別れさせること」
「だからなんで御法川と別れなきゃならないんですか!」
「あなたが特異点だから…」
「特異点?」
「そう、この世界が並行世界で成り立ってるのは知ってるわよね?」
「ん?並行世界?マルチバース的なやつのこと?」
いきなりSF用語を言われて一瞬戸惑ったが、創作物に関してはそれなりに自信のある想太である。
ただ、これから展開するであろう話にはまだピンときていないようだ。四乃森朱里が説明をし始める。
「あぁ、そっか、この時代ではまだ学説が出始めたくらいか。マルチバースというのは概念的に間違ってないけど、それはかなり基礎的な考え方ね。大事なのは宇宙の構築のされ方なの。ひとつひとつの宇宙がどうやってできていくのかが大事なの。想太くんは量子のゆらぎって知ってるわよね?」
「量子コンピュータの元になる理論ですよね?この世はゼロイチじゃなくて、ゼロでもイチでもない状態があるっていう」
「そう、シュレディンガーの猫で有名ね。観測されるまでは、そのどちらでもない【ゆらぎ】の状態なの。宇宙はその【ゆらぎ】が確定するたびに生み出されていくものなの。ここまでは分かる?」
「まぁ、アベンジャーズみたいなものかな、きっと」
「アベンジャーズ?なにそれ?」
「知らないんですか?あの歴史的名作を。SF映画の金字塔なのに!それこそマルチバースという考え方を世界に広めたと言っても過言ではない…」
想太が熱く語ろうとするのを遮って、
「あぁ、この時代のSF作品ね」
「SFは馬鹿にできないですよ。遠くはジュール・ヴェルヌの時代から空想されてきたことは実現されるというのが科学の方則で・・・あ、会長は現実主義の物質主義者ですか?目の前のものしか信じないという」
「私、未来人なんだけど?」
ユーモラスに肩をすくめるが、美人はそれすら様になっている。
「そんなこと知ってるわよ。でも、へぇ、この時代にそんな作品あったんだ。今度見てみようかな」
「おススメは全作品を時系列に見ていくことです。まぁ、会長も忙しいでしょうから、主要作品の主要タイトルだけ見ていくのもありですが、今まで個々に切り離された作品の世界線がオーバーラップしていく感覚がたまらないんですよね…」
「・・・想太くん、あなたおしゃべりヲタク野郎ね、オシャヲタね・・・よく女の子に喋らない方がいいのにって言われない?」
みんなに慕われる生徒会長にも毒舌なところがあるようだ。
想太は苦笑いを浮かべる。たしかに好きなことになると熱くなりすぎて、一般女子には引かれることが多い。
「別にヲタクなわけじゃないですよ。俺は幅広く知識を得るのが好きという言わばインフォマニアってだけです」
「そんなドヤ顔で言われても…フフ、ほんと理屈っぽいんだから」
そんな風に笑う四乃森朱里の笑顔は意外と屈託なく可愛いのであった。
「話がだいぶズレたわね…まぁ、そういう【ゆらぎ】の中で人類はそれぞれの人生を確定させながら、同時に無数の宇宙を生み出しているの。ここまでは分かった?」
「つまりは、人は選択しながら過去の可能性を消しながら未来を確定させていくってことですよね?」
「正確には現在ね。未来は確定しないわ。未来自体はゆらぎ続けるものなの・・・ひとりひとりの【ゆらぎ】はほんと些細なもの。分かるでしょ?言葉は悪いけど一般人や脇役がなにをしようと世界ましてやマルチバースに影響を与えるものではないの。でもね、たまにごくたまにブラックホールのように、とても大きな影響を与える存在がいるの」
四乃森朱里は強い眼差しで真っ直ぐに天之河想太を見つめる。少し悲しみが混じったように瞳が潤んでいるようにも見える。
「天之河想太くん、あなたは重大な特異点なの。だから、ごめんなさい、何も言わずに御法川さんと別れて」
いきなりそんなことを言われて「はい」という奴はいない。
想太も御多分に漏れずに抵抗をする。
「はい・・・って簡単に言うわけないでしょう。それに生徒会長が未来から来たってまだ信じたわけじゃないんですから。実はどこかでカメラ回して配信ドッキリしようとしてるんじゃ…」
想太が屋上を見回しても、2人の他に人影もなく、黄昏で灰色と赤の混ざり合ったような校舎はシンと静まり返っている。
「そうね、こんなのはどう?」
そう言って四乃森朱里は、人差し指を突き立て、想太の鼻の前で一回転させる。
フワリと風が回るのを感じる。
「ごめんね、さっきは焦って出力最大になっちゃったんだけど、ほんとは2人の間にカーテン靡かせてから私が教室に駆け込むはずだったんだけど」
「それは…普通にひどいです。じゃあ、中庭に落下中のは?どうにかして屋上に連れてきたんですよね?」
「あぁ、それは…ほんとの裏ワザだから、ちょっと無茶したって言うか…バレたら怒られるやつだから…」
言い淀む四乃森朱里に、実はこの人かなり天然ていうか大雑把な人なんじゃ?と想太が思い始めた時、
「ま、まぁ、結果誰にも気づかれず、なにごともなかったんだからいいじゃない。結果オーライよ」
「ぜんぜん結果オーライじゃありません!俺は御法川のこと好きですから、諦めたりしませんからね!」
そう言ってその場を立ち去った想太は御法川愛を探したが、彼女はすでに帰っていたのか、見つからなかった。
LINEをしても、なぜか既読になる気配もなく、想太は1人帰宅するしかないのであった。




