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「御法川さん、大丈夫。私はあなたの味方だから。あなたが何に怯えてるのかも知ってるの」
「なんで?想太くんが?」
朱里は首を振ると、
「お母様からも聞いてるの。だから安心して。ね、鞄の中確かめてくれるかな?」
言われて愛は鞄の中を開けて、中身を慎重に確認しようとする。
「!」
そこにはレターセットに入った手紙が入っていた。
「なんで…」
朱里はショックを受ける愛の肩に手を置き、
「中を確認してみましょう」
と、手紙を自分で手に取り、封を切る。そこには次のように書かれていた。
次ノ撮影ロケ決マッテヨカッタナ
スタッフノ奴ラ信用デキナイカラ
俺モ近クデ見守ッテテアゲルカラネ
それを見た愛は身体を小刻みに震わせている。
「かわいそうに、でも心配しないで。私たちが協力するから。だから少し話を聞かせてちょうだい?」
と言って、落ち着かせるように愛を椅子に座らせる。
それからツカツカと廊下で待っている教師の田中のところに行くと、耳打ちをする。
「いや、それなら私も聞くべきだろう?」
田中はそう言ったが、朱里は
「先生、それなら女性の先生を呼んできてください。これはとてもデリケートな問題です。だから、先生、あとサッカー部の君も今日のところは私に任せてください。あ、想太くんも無罪放免で。御法川さんにも確認して問題なかったから、あなたも授業に戻りなさい」
男たちを追い払うと、朱里は愛の前に座って微笑みかける。
「怖いわよね、ストーカー」
「はい、私心当たりがなくて、だから余計に…」
「想太くんを疑ってる?」
「最初は…だって、想太くん、変なこと言うもんだから…」
「変なこと?あぁ、まぁ想太くん自分で分かってないけど暴走列車みたいなものだから気にしない方がいいわ」
朱里の発言に愛はクスリと笑うと、
「生徒会長さんは想太くんと仲良いんですね」
「あかり、でいいわ。私もアイちゃんて呼ばせてもらうね。うーん、そうね、仲はいいわね。でも、恋愛とかそんなんじゃぜーんぜんないの。分かるでしょ?世話が焼ける親戚の男の子?みたいな」
「フフフ、会長、あかりさんにかかると想太くんも弟キャラなんですね。私にとっては頼れるって感じなんですけど」
「まぁ、良い人よね、想太くん。人から距離を取ろうとするけど、あれは一種の照れ隠しね。ほんとはおせっかいで世話焼きなくせに、必死でそれを隠そうとしてるから人につっけんどんになるの。本人はクールでカッコいい自分を演出したいんだろうけど…」
「フフ、カッコつけてるけど分かりやすいんですよね」
「知的な人間はクールであるべきだって、どんなステレオタイプなのかしらね?知的で情熱的な方が何万倍もカッコいいのに。この時代のアニメとかマンガの影響なのかしら?」
「あぁ、そうかも…フフ…俺はNo.2で、色で言ったら青だって、よく言ってました」
「過去形で語るのね」
「だって…私もう恋愛なんてしてる暇もないから」
愛は過去の想太とのやり取りを思い浮かべたのか、少し苦しげな表情をしてうつむく。
「せつないね、でも成長していくには仕方ないことなのかもしれない」
「ほんとは、今も色んなこと想太くんに相談したい。一番そばで話を聞いてくれてたの想太くんだから。周りのプロの人たちは色んなアドバイスしてくれるけど、それは一般論だから…私じゃない人にも同じこと言ってるんだろうなと思ってしまって…ストーカーのことも、有名になったら何百人てストーカー候補はできるもんだから、気にしてたら続かないぞって」
「まぁ、確かにコメントとかいちいち気にしてられないわよね…でもね、アイちゃん」
正面を向き、愛の両肩を手で支えて頷きかける。
「ストーカーは絶対に私たちが捕まえてみせるから」
「なんで、そこまでしてくれるんですか?」
「それはあなたがこれから大スターになることを知ってるからよ。ストーカーに神経やられて、ううん、これからはエスって呼びましょう、言葉に怯えるのもバカらしいわ。そんでエスの野郎のせいでアイちゃんが芸能界やめますなんて言ったら社会の損失じゃない。きっとこれからあなたの作品に元気づけられ、救われる人はたくさんいるんだから」
愛は朱里の目をハッとしたように見つめる。まるで想太に言われてるように感じたのだ。
朱里は続ける。
「あとね、私はこの学校の生徒会長としてアイちゃん、あなたのこと応援してるの。うちの学校の生徒が苦しんでたら、助ける、それが当たり前でしょ?」
「当たり前?なんでしょうか?あかりさんにメリットがあるようには思えないんです」
「アイちゃんも今時の子ねぇ…メリットデメリットで人生考えてたら誰にも好かれなくなっちゃうよ?あ、私から1つアドバイスを。もしこれから2つの役で迷ったら、デメリットしかないと思う方の役を選びなさい。きっとそれがあなたをそれまでとは全く違う次元に連れてってくれるから」
首を傾げている愛を見て、クスリと笑う。
「なんでかなぁ、私の知ってる人が自分にとって何の得もないことばっかり一生懸命やってる人だったからかな。その人のこと理解しようとしてたら、メリットデメリットで考えてる人たちのことが何だかとってもツマラない人間だなって思えちゃって。損得って2択じゃない?でも、ほんとはもっと選択肢ってたくさんあるんだって、その人から教えてもらったんだよね。世界はゆらぎ続けて無限に拡がっているんだよ」
「あかりさん!私感動しました!なんだか目が覚めた思いです。そうですよね、2択じゃないんですよね」
勢いよく立ち上がった愛に、度肝を抜かれ朱里は後ろにのけぞった。
「そっか、2択じゃないんだ…」
何かを噛み締めている愛を横目に、朱里はエスの手紙に目を戻し、
「この撮影ロケはどこでやるの?」
現実に引き戻す質問をする。
「京都です。京都のお寺や神社で今度のゴールデンウィークに合わせて1週間かけて…」
「そっか、それはエスの野郎にとっては好都合ね…大型連休なら休みを取ってても周りに怪しまれないし…でも、それはこっちも一緒か…アイちゃん!」
「はい」
「私と生徒会に任せておいて!私たちも合宿と称して、アイちゃんの撮影ロケに着いて行くから!」
そう言った朱里の眼は爛々と輝いているようだ。まるで京都観光を楽しみにしているかのように。




