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天之川想太(16)高二。本作の主人公?少なくとも中心人物。ヲタクでありおしゃべり。
御法川愛(16)高二。想太の恋人だったが、突然有名になり、二人は微妙な関係に。
四乃森朱里(17)高三。生徒会長。実は想太の恋を邪魔するために来た未来人。
槍ヶ岳ヒカリ(15)高一。インフルエンサーとしてフォロワー獲得に執念を燃やす。
小山内里菜(16)高二。イラスト絵師として、かなりの収入を既に得ている。
多賀康朗(17)高二。通称ガロ。想太の悪友。
翌日、愛のクラスの教室移動の時間を狙って、想太は授業をサボって生徒会室に待機をしていた。
授業開始のチャイムが鳴るのを見計らって、愛の教室に移動する。
誰かに見咎められないように息を潜めながら廊下を歩く。
なるべく自然にと思うが、周りを見渡しながら移動するから挙動不審になりがちなのも仕方がないだろう。
なんとか教室の前まで来て、誰もいないことを確かめると、扉を開けて愛の机まで身をかがめながら近づく。
机の横にかかった鞄を手に取り、前後にシールを貼り付ける。
やっていることはストーカーそのものだ。
そんなことを思っていると、
「お前!何やってんだよ!」
背後から大声で怒鳴りつける声がする。
振り返ると、速見が鬼の首を取ったかのような顔で想太のことを見下ろしている。
しまった!そう思ったが、時すでに遅し、だ。
「いや、なんでもないんだ、実はちょっと御法川に用があって…」
「用?今は授業中だろ、それをコソコソと、なんの用だよ」
しごく当たり前のことで、言い返す言葉も見つからない。
「いや、、」
「お前、御法川のストーカーだろ、物取ろうとしたんじゃないのか?」
と速見は想太から鞄をぶん取ろうと手を伸ばす。
「やめろ、放せ」
二人が揉み合いになって騒いでいるのをを聞きつけられたのか、一人の教師が教室に入ってきて二人に尋ねる。
「おい、お前たち!授業中だろ、何をやってるんだ?」
よりによって数学科の田中だ。
いかにも理系らしく感情をどこかに置いてきたんじゃないかと生徒たちから嫌われている。
速見が言う。
「こいつが御法川の鞄をあさっていたのを見つけたんです」
「いや、俺はそんなことしません」
言い合う二人を睨みつけて、田中はさも面倒だと言わんばかりにため息をつくと、
「とりあえず二人とも生徒指導室まで来なさい」
そう言って二人は連行されていくことになったのだった。
田中は生徒指導室で二人を座らせる。机の上には御法川の鞄がある。
「とりあえず、天之河?身体検査をするぞ。物を取ったりしてないか調べさせてもらう」
たしかに、最初に疑うべきは物盗りの線か、妙に納得した想太は従順にポケットの中の物を取り出す。
スマホ、文庫本、小銭入れ、ペン、大したものは出てこない。
「お前、文庫本なんかポケットに入れてるのか、変わった奴だな」
田中はペラペラと文庫をめくりながら想太を見る。
「で?お前はなんで御法川の鞄をあさってたんだ?」
「いや、、あさってなんかいません」
答えに詰まる想太に、
「こいつ愛のストーカーなんすよ。なんか愛の物が欲しかったんじゃないすか?それを俺が来ちまったもんだから」
「ふむ、未遂ってことか…」
田中は冷徹な目で想太を眺める。
想太は焦りながら、
「あさるつもりなんてなかったんですよ。ただ、どうしても渡したいものがあって、、そう、、その文庫本、前から御法川に貸すって約束してたんですけど、どうしてもお互い時間合わなくて、それで」
「おいおい、愛がお前なんかと仲良くするわけないだろ。俺は聞いたことないね、お前の話なんか」
同じクラスになって日も浅いくせに愛呼ばわりする速見に軽く殺意を覚える。
「俺は御法川と去年同じクラスだったんだよ」
「お前みたいなオタクと愛が仲良いわけないじゃん」
速見は人によって態度を変える典型的な人間なんだろう。ありもしないカーストやレベルを持ち込んで、自分より人を下に見ることで、自分は何者でもないのにプライドを保とうとする。人の中身を見ずに印象だけで話す人間が多すぎる。
「ふーん、ハムレットね…今どきこんな古い本を貸し借りするかね…図書室にもあるだろうに」
田中は興味なさそうに文庫本をペラペラめくっている。あまりぞんざいに本を扱わないで欲しい。想太は紙の本にも愛着があり、折り目がついたりするのをとても嫌っている。その点、愛は本を貸しても、きちんと綺麗に取り扱ってくれる。
放課後、貸した本を丁寧に読んでいる愛の姿を思い出し、心が締め付けられそうになる。
あの頃は、愛から次の本をねだられることが嬉しくて仕方なかった。
本を読むには不純な動機かもしれないが、愛の好きなジャンルや演技の役に立ちそうな本を先回って探しては自分が先に読んだのだった。
ハムレットもそうした本の一つだ。
ミレイという画家の「オフィーリア」という絵画があるのだが、想太はその絵画の紹介動画を見た時に、愛にその絵をぜひ見てもらいたいと思ったのだ。
オフィーリアはハムレットの恋人で、オフィーリアに冷たくされることでハムレットは狂ってしまうのだ。
恋人に冷たくされただけで狂う?そんなことを思っていた想太だが、今の心境的にハムレットの気持ちが分かるような気がして、今それを読み進めているところだったのだ。
だから、まぁ、愛に読んでもらいたくてという話はあながち嘘ではない。
想太は反論する。
「前に御法川さんとハムレットの話をしたことがあるんです。それで、演技の話とかになって、ハムレット読んだ方がいいって話になって」
「そうやって、愛の気を引いてんのかよ、姑息な奴」
速見は言うが、よくこれだけ捻くれた受け取り方ができるものだと想太は逆に関心してしまう。
田中は二人のやり取りには興味がないようで、愛の鞄を開いて中身を見ようとする。
ガラガラ!
そこで指導室の扉が開き、生徒会長である朱里が入ってくる。
「先生、いくら先生でも、個人の、しかも女性の鞄を調べるのはエチケット違反じゃないですか?」
「なんだ、四乃森、どうしてお前が?」
「いえ、ちょっとうちの生徒会のものが騒ぎを起こしたと小耳に挟んだので。あ、御法川さん、早く入って」
そう声をかけると一同ギョッとして、愛が入ってくるのを待つ。
そこには御法川愛本人がいた。
愛は伏目がちに、そして心細そうに指導室に入ってくる。
想太は目が合うことを期待したが、愛は顔を上げることもなく想太の方を見ることもしない。
朱里が愛に向かって、
「ごめんね、うちの想太くんがなんだか誤解をさせるようなことしたみたいで。でも、想太くん変なことするような子じゃないから、ちょっと鞄の中を御法川さん本人で確認してもらっていいかな?えっと、男性諸兄はちょっと席をはずしてもらえます?終わったら呼びますので」
そう言って、想太たち3人は廊下に出されたのだった。




