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天之川想太(16)高二。本作の主人公?少なくとも中心人物。ヲタクでありおしゃべり。
御法川愛(16)高二。想太の恋人だったが、突然有名になり、二人は微妙な関係に。
四乃森朱里(17)高三。生徒会長。実は想太の恋を邪魔するために来た未来人。
槍ヶ岳ヒカリ(15)高一。インフルエンサーとしてフォロワー獲得に執念を燃やす。
小山内里菜(16)高二。イラスト絵師として、かなりの収入を既に得ている。
多賀康朗(17)高二。通称ガロ。想太の悪友。
朱里が想太を連れて行ったのは学校の中の打ち捨てられた一角にある倉庫のような用務員室であった。
「クロちゃん、入るね」
朱里は引き戸を開けると遠慮なく部屋の中に入る。
想太が恐る恐る部屋を覗くと、中には1人の用務員が白衣を着て椅子に座っていた。年齢は三十代だろうか、高校生にとっては年上の年齢の見極めは特に難しい。
「想太くん、こちらクロちゃん。クロちゃん、こちら想太くん」
朱里が軽く雑に紹介を済まそうとすると、クロちゃんと呼ばれた男が苦笑しながらたしなめる。
「朱里、紹介するならきちんと紹介しなさい。想太くんもなんのことか分からないだろう。はじめまして、天之河想太くん。私は四乃森玄介、朱里の遠縁の親戚で、この時代での後見者と言ったところかな」
朱里がこの時代に独りぼっちではなかったことに少し安堵感を覚えながら、想太は疑問を覚える。
「えっと、四乃森さん、はどこまでご存知なんですか?」
「クロでいいよ。もちろん全部知ってるよ。朱里の目的、君が特異点であること、御法川さんが今危険に晒されていること。私は朱里がこの時代に来てまでやろうとしていることを全力でサポートするために存在してるんだ」
そこで四乃森玄介は肩をすくめて笑って、
「朱里のおかげで一生働かなくても食えるだけのお金も稼げるからな」
「また、クロちゃんはそんなこと言って…私の周りみんな悪ぶる人ばっかり。だからクロちゃん未だ独身なのよ。顔はいいのに」
確かに遠縁とはいえ、親戚というだけあって整った顔立ちをしている。ただ無精髭と野暮ったい髪型、メガネのせいで大分印象を落としているようにも見える。
「外見や外ヅラで選ぶ女とは付き合いたくないんだよ」
嘯くクロに想太は質問を投げかける。
「お金を稼ぐって、どういう?宝くじとか競馬とか、でですか?」
クロは首を振ると、朱里を一瞥する。朱里が頷くと話し始める。
「いいかい、想太くん。【ゆらぎ】の世界では、投機と賭け事は禁物なんだ。どっちに転ぶか分からないからね。観測するまで事象は確定しないんだから、みんなと同条件なんだ」
「じゃあ、どうやって?」
「この世で一番確かなことって知ってるかい?それは知識だ。僕は朱里から未来の知識を教えてもらっているんだ。それで得た知識で作ったものが、例えばこれさ」
と机の上にある小さなノートPCを指差す。
「これはなんの変哲もないPCだと思うだろう?でも、実はこれ、ここだけの話、量子コンピュータなんだ。しかも今世界で開発中のものを遥かに凌駕したスペックがあるから、これ一台で通常のPCの1億台相当のことができるんだ」
「そんな、まさか!」
「初期のPCから比べたら今の通常のPCだって7000万倍もスペック上がってるんだから、理論的に無理な話じゃないよ。実際、これ一台で、現存する世界のコンピュータ全部を超えるスペックがあるからね。電力消費も普通のPC程度だし、これこそエコだよね」
そこで朱里が肩をすくめてため息をつく。
「未来だと、こんな大きな機械を持ち歩くことすらないんだけどね。ネットワークに接続できるチップだけあれば、あとはクラウド上に全てがあるから」
「まぁ、そこは仕方ないな。新素材とかの量産には、やっぱりそれなりの設備がいるからな。で、この量子コンピュータを使って手っ取り早くお金を稼ぐなら、想太くんだったら何をする?」
「えっと…ハッキングとか?銀行とかからお金を引き出すとか?」
「うん、それも一つの手段だね。ただ、リスクもあるし、それは犯罪だ。発覚はしないだろうけど、僕的にはもう少しエレガントに稼ぎたいわけだ」
そう言って頭を人差し指で叩いてみせる。
「マイニングって知ってるだろう?暗号通貨を生み出す方法だ。暗号通貨はとにかくマイニング(計算)をたくさんした者に報酬として通貨を渡す仕組みだから、世界で一番速くて賢い量子コンピュータで、毎日稼いでもらってるのさ」
「な、なるほど、じゃあクロさんはお金持ちなんですね」
「ほとんど、朱里のリクエストする物の開発費に消えてくけど、まぁ食うには困らないかな」
「そうそう、クロちゃんに新しく作ってもらいたいものがあって来たんだった」
そう言って、朱里は手元の時計型デバイスに何かを呟く。
するとデバイスが宙にいくつかの画像を描き出す。
クロはそれを見て、うなずきながら、時計型デバイスを近づけデータを受け取る。
意味も分からずに見ている想太に説明をしてくれる。
「要は360度カメラの進化版みたいなものだね。まぁ、平面シール型にするから、正しくは180度カメラかな…知ってるかい?レンズを3つにすることで深度まで測る技術が今もあるけど、指向性を持たせることでレンズ一つでも深度まで観測できるようになってるんだ」
どうやらクロも話好きらしい。
「はいはい、クロちゃん、能書きはいいから、早く作ってよ。想太くんだって興味ないでしょ」
すると想太は目を輝かせ首を振って、
「いやいやいや、何を言ってるんですか、会長!こんなの興味ないわけないでしょう!すごいことだらけじゃないですか!」
「そうだろう、そうだろう。想太くんは話が分かるな。じゃあ、特別に作るところも見せてあげよう」
そう言って、大型冷蔵庫のところに想太を手招きする。
「冷蔵庫?ですか?」
「まぁ、あまり大っぴらに分かるようにするとややこしいからね。これはね、形は冷蔵庫を模してるが、3Dプリンタの進化版みたいなものだ。造形だけでなく、半導体やセンサまで繋げてくれる優れものだ」
時計型デバイスを冷蔵庫にタッチすると、冷蔵庫の扉が液晶のように図面を映し出す。
「さっき朱里から受け取った図面を読み込ませたら、必要な素材を提案してくれるんだ。なになに…あぁ、うーん、一つだけ今ここにはないものがあるな…朱里、ちょっとおつかいしてきてくれないか?」
「何が足りないの?」
「そうだな…保健室から、風邪薬取ってきてくれないか?」
「風邪薬なら、俺持ってますけど」
想太が鞄から風邪薬を取り出すと、
「あぁ、ありがたい。これで素材は揃ったね。ちなみにこれ、素材から元素を抽出をして再構築してくれるから、割と世の中にあるものいくつか入れれば、だいたいなんでも作れるんだよ。あー、麻薬なんかも一瞬だね、そういえば。それこそガチ犯罪だけど、ハハハ」
クロさん、すごそうだけど、笑いの勘所はイマイチよく分からない、と想太が思っていると朱里がそれに気づいたのか小声で、
「クロちゃん、もともとすごい科学者だったんだけど、人とちょっとズレてるのよね。だから大学とかにも居場所なくってね。ほらこの時代は人付き合いも大事でしょ?」
「さて、これでセットは完了だ。そうだな、30分くらいあれば完成品渡せるかな」
「そんなにすぐにできるんですか?」
「今回は小さいものだし、割と単純な機能しかないからね。動画を連続で撮り続けて、無線でデータ飛ばしてこのPCに保存するだけだからね」
と事も無さげに言う。
「未来とんでもねーな…」
思わず想太は呟いたのだった。




