二章 ①
天之川想太(16)高二。本作の主人公?少なくとも中心人物。ヲタクでありおしゃべり。
御法川愛(16)高二。想太の恋人だったが、突然有名になり、二人は微妙な関係に。
四乃森朱里(17)高三。生徒会長。実は想太の恋を邪魔するために来た未来人。
槍ヶ岳ヒカリ(15)高一。インフルエンサーとしてフォロワー獲得に執念を燃やす。
小山内里菜(16)高二。イラスト絵師として、かなりの収入を既に得ている。
多賀康朗(17)高二。通称ガロ。想太の悪友。
「想太くん」
夕暮れ時、長い話を終えて帰宅していると、最寄駅の改札を出たところで呼び止める声がした。
帽子をかぶり、マスクをして変装をしているが、確かに御法川愛本人だ。
接触するなと言われたばかりにも関わらず、このタイミングで声をかけられたことに、驚きよりも喜びの方が大きい。それはそうだろう、自分の好きな相手に会ってときめかない男はいない。
「御法川、その、元気だった?」
気の利いたことも言えずに当たり前のことを言ってしまう。
「あのね、ちょっと、話があるの…少しだけいい?ここは、人目があるから、ちょっとだけ」
2人はカラオケボックスに移動して、個室に入る。
2人きりになるのはあの夕方の教室以来だ。
愛はマスクを取り、帽子を脱ぐと髪がふわりとなびいて良い香りを漂わせる。
自分の彼女ながら、顔立ちの整った愛を見ることに恥ずかしさを覚えて、つい顔を伏せてしまう。愛は不思議そうに想太を見るが、きっとまだ自分の魅力を本当には理解していないんだろう。
想太はあの日の続きをと夢想したが、それも束の間のことだった。
愛は少し申し訳なさそうに、遠慮がちな上目遣いで想太を見つめて言った。
「あのね、想太くん、前に私にDM送ってくれたって言ってたでしょ?」
「ああ、送ったよ、何度も」
「届いてないのよね…やっぱり…ねぇ、なんて送ってくれたの?」
「え?それは…いや、この間、教室で俺いきなりいなくなっちゃったから、御法川も心配したんじゃないかって」
「え?教室?いなくなった?なんのこと?」
「えっと、放課後2人きりで教室で、その…キス、しようとした時に…」
すると、愛は戸惑ったように、
「え?キス?なんで想太くんと?」
想太は衝撃を受ける。まさか!?生徒会長は愛の記憶を消したのだろうか?だとしたらどこまで…
「えっと、告白、のこと覚えてる?」
「告白?」
愛は顔を赤らめて、頬を抑える。そんな仕草もたまらなく愛しく感じてしまう。
「うん、御法川が新学期入って、しばらくしてから、、」
「え!?ちょっ…ちょっと待って!私の方から、想太くんに?」
これは確実に告白前まで、記憶を消されているようだ。
「そうだよ、御法川が俺に告白してくれたんだよ…中学の頃から好きだったって…」
「え?えっと…それは、そうなんだけど…なんでだろ、私そんなのぜんぜん覚えてない…」
消え入りそうな声で呟く。
「先を越されたと思って…でも俺も…」
手を伸ばして愛の手を取ろうとする想太を遮り、
「待って!それ以上言わないで!今は私、誰とも付き合えないの」
愛は声を絞り出す。
想太は硬直したように、止まって拳を握り締め、何かに耐えるように俯いている愛を眺めることしかできない。
ただ、記憶が遡ったとしても、お互いの気持ちの底にはお互いのことを好きな気持ちがあるという気がして、想太は少し落ち着いた気持ちになった。自分はまだ愛のことを好きでいていいんだと言われている気がした。
遠くの部屋から微かにラブソングが聞こえてくるが、2人ともそれは耳に入らず、沈黙のままお互いの鼓動が鎮まるのを待つことしかできない。
意を決したように愛が口を開く。
「私の周り、なんかおかしいの。なんだか夢の中にいるみたいに私の環境がどんどん変わっていって、私が私じゃないみたいなの。SNSでも何もしてないのに、どんどんフォロワーとか増えて、知らない人からのDMもすごく増えてて…」
環境の急激な変化に戸惑いを隠せないのか、愛は自信なさそうな顔をする。
想太はその時、ふと中学生の時の愛の姿を思い出した。
今より少しぽっちゃりとしていて、メガネをかけていた愛が、自信なさそうに校庭の階段のところで座っている。その時を思い出して、想太の口をついて出たのは次の言葉だった。
「御法川は御法川だから。お前のこと誰が分かるって言うんだよ」
言われた愛はふと、顔を上げると、弱々しく少し微笑む。
「覚えてて、くれたんだ?あの時はクラスのみんなから、女優になるの揶揄われて落ち込んでた時だったよね。あの頃の私、ぽっちゃりしてたから…」
「でも、演劇部で一番演技うまかった。笑いたい奴は自分で努力したことない奴なんだよ。だから、人から言われて落ち込むなんて馬鹿馬鹿しいじゃん。今だってそうだ。どんだけ有名になっても、どんだけバズっても、御法川が御法川なことは変わらないだろ?」
「私、変わらないでいられるかな?」
「うん、当たり前だろ」
力強く答えた想太だったが、人は痛みと共に成長のために変化しなければいけないことがあるということをその時はまだ分かっていないのだった。




