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初めてエルフリートおすすめの小鳥の丸焼き――グリフォン焼きという名で販売されていたものだ――を食べたロスヴィータの感想は、「意外と悪くない」だった。丸ごと食べるという事が、なんとも恐ろしく感じたロスヴィータだったが、覚悟を決めて良かったと思う。
グリフォンの名を冠している割に、その小鳥の丸焼きは小さかった。まあ、小鳥だから小さくて当たり前なのだが。
しっかりと焼かれたからなのか、鳥というものの骨が柔らかいのか、小鳥だからこそ柔らかいのか、硬さはあるものの骨まで食べる事ができてしまう。エビの内臓が美味しい事を知っているからか、鳥の頭はまろやかなこくを感じさえした。
ロスヴィータはその小さな塊をあっという間に平らげると、何だか物足りない気がしてくる。
不思議な余韻に浸っていると、エルフリートがその様子を見て微笑んでいるのに気が付いた。
「……何か、変か?」
「ううん。ロスがおいしそうに食べてるから嬉しくって」
エルフリートは慣れた手つきで丸焼きをぺろりと平らげていた。頭をぱくりと口に入れてにこりと笑んで、そのままもぐもぐと食べていく。
確かに、人がおいしそうに食べる姿を見るのは楽しい。それが好きな人ならなおさら。そこに、故郷の味に近しいものを楽しんでいる、とくれば嬉しくなるのも頷ける。
ロスヴィータは口の端を上げて笑い返す。
「私はあなたが鳥を頬張る姿が可愛らしくて最高の気分だ」
「やだ、ロスったら!」
ぽっと頬を染め、大袈裟に反応してみせる彼は可愛い。ロスヴィータは串を持ったまま手を振ろうとした彼からそれを奪い、捨てに行く。
近くにあったゴミ箱に捨てて戻ってくれば、エルフリートはお行儀よく「ありがとう」と礼を口にした。
「あ、ロス……ちょっとごめん」
「ああ、どうした……?」
ロスヴィータが首を傾げると、いつの間にかハンカチを手にしていたエルフリートがそれを頬にあてる。
「ふふ、ちょっとたれがついちゃってるよ」
「む」
ハンカチがロスヴィータの頬を優しく擦る。ロスヴィータはぴたりと動きを止めて彼の行為を受け入れる。ロスヴィータの頬にあてられたハンカチは、すぐに離れていった。汚れている場所を内側にして折りたたみ、エルフリートはポケットへとしまう。
その優雅な仕草は女性そのものだ。ロスヴィータは恥ずかしさを堪え、小さく笑んだ。
「すまない、ありがとう」
「ううん。食べ慣れないと、そうなっちゃうから。私なんて、油を垂らしてお洋服を汚しちゃった事があし……初めて食べるならしょうがないよ」
エルフリートはロスヴィータが小鳥の丸焼きを食べている時以上に嬉しそうな顔をしている。
「えへへ、ロスの面倒を見ちゃった」
「……フリーデが嬉しいなら、それで良い」
綺麗に食べられなかった自分に羞恥心を覚えていたロスヴィータだったが、あまりにエルフリートが嬉しそうにそう語る為、ロスヴィータはどうでも良くなってしまった。
「じゃあ、行こう! 確か、こっちだって言っていたよね」
さり気なくロスヴィータの手を引き、エルフリートが歩き出す。ロスヴィータは繋がれた手をじっと見つめた。手を繋いでみると、エルフリートの方が一回りくらい大きいのが分かる。同性にしか見えないが、そういうパーツの一つひとつは男性なのだ。
もう少しで、きっと彼は女性騎士団からいなくなる。寂しいが、元からそういう約束だったのだから、感謝の言葉を送って、彼が去るのを見つめるしかできない。
こうしてずっと共に過ごしてきたエルフリート。異性でも同性でも良い。エルフリートという存在が、ロスヴィータにとって大切なのだ。ロスヴィータは彼のいない女性騎士団の姿を想像し、心細い気持ちになった。
「ロス?」
「いや、何でもない」
「そう? あ、お店の看板が見えてきたよ!」
思わず手に力を入れてしまい、彼が振り返る。公園の外灯とは異なる光が当たった彼は、年相応の青年に見えた。だがそれも一瞬で、彼はいつもの姿へと戻る。
「私ね、いっぱい食べたい!」
そう言ってはしゃぐエルフリートに、ロスヴィータは苦笑しながら「さっき少し食べたではないか」とからかう。
目的の店舗の扉を押せば、カランとベルの音が鳴り響く。喫茶店のような音にロスヴィータは目を瞬かせる。ベルの音に気付いた店員が足早に寄ってきた。
恰幅の良い女性だが、気さくな雰囲気をしている。
「いらっしゃい、見かけない顔だけど……」
「ああ、初めてここに立ち寄ったんだ」
エルフリートの代わりにロスヴィータが答える。宿の人に教えてもらったと伝えれば、店員はとても嬉しそうに笑った。
「あそこの宿の紹介なら大歓迎です! さあ、奥へ――」
エルフリートとロスヴィータは顔を見合わせた。




