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妖精と王子様のへんてこルンバ(へんてこワルツ6)  作者: 魚野れん
やる事はあれど、仕事も忘れずに。

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5

 初めてエルフリートおすすめの小鳥の丸焼き――グリフォン焼きという名で販売されていたものだ――を食べたロスヴィータの感想は、「意外と悪くない」だった。丸ごと食べるという事が、なんとも恐ろしく感じたロスヴィータだったが、覚悟を決めて良かったと思う。

 グリフォンの名を冠している割に、その小鳥の丸焼きは小さかった。まあ、小鳥だから小さくて当たり前なのだが。

 しっかりと焼かれたからなのか、鳥というものの骨が柔らかいのか、小鳥だからこそ柔らかいのか、硬さはあるものの骨まで食べる事ができてしまう。エビの内臓が美味しい事を知っているからか、鳥の頭はまろやかなこくを感じさえした。

 ロスヴィータはその小さな塊をあっという間に平らげると、何だか物足りない気がしてくる。

 不思議な余韻に浸っていると、エルフリートがその様子を見て微笑んでいるのに気が付いた。


「……何か、変か?」

「ううん。ロスがおいしそうに食べてるから嬉しくって」


 エルフリートは慣れた手つきで丸焼きをぺろりと平らげていた。頭をぱくりと口に入れてにこりと笑んで、そのままもぐもぐと食べていく。

 確かに、人がおいしそうに食べる姿を見るのは楽しい。それが好きな人ならなおさら。そこに、故郷の味に近しいものを楽しんでいる、とくれば嬉しくなるのも頷ける。

 ロスヴィータは口の端を上げて笑い返す。


「私はあなたが鳥を頬張る姿が可愛らしくて最高の気分だ」

「やだ、ロスったら!」


 ぽっと頬を染め、大袈裟に反応してみせる彼は可愛い。ロスヴィータは串を持ったまま手を振ろうとした彼からそれを奪い、捨てに行く。

 近くにあったゴミ箱に捨てて戻ってくれば、エルフリートはお行儀よく「ありがとう」と礼を口にした。


「あ、ロス……ちょっとごめん」

「ああ、どうした……?」


 ロスヴィータが首を傾げると、いつの間にかハンカチを手にしていたエルフリートがそれを頬にあてる。


「ふふ、ちょっとたれがついちゃってるよ」

「む」


 ハンカチがロスヴィータの頬を優しく擦る。ロスヴィータはぴたりと動きを止めて彼の行為を受け入れる。ロスヴィータの頬にあてられたハンカチは、すぐに離れていった。汚れている場所を内側にして折りたたみ、エルフリートはポケットへとしまう。

 その優雅な仕草は女性そのものだ。ロスヴィータは恥ずかしさを堪え、小さく笑んだ。


「すまない、ありがとう」

「ううん。食べ慣れないと、そうなっちゃうから。私なんて、油を垂らしてお洋服を汚しちゃった事があし……初めて食べるならしょうがないよ」


 エルフリートはロスヴィータが小鳥の丸焼きを食べている時以上に嬉しそうな顔をしている。


「えへへ、ロスの面倒を見ちゃった」

「……フリーデが嬉しいなら、それで良い」


 綺麗に食べられなかった自分に羞恥心を覚えていたロスヴィータだったが、あまりにエルフリートが嬉しそうにそう語る為、ロスヴィータはどうでも良くなってしまった。


「じゃあ、行こう! 確か、こっちだって言っていたよね」


 さり気なくロスヴィータの手を引き、エルフリートが歩き出す。ロスヴィータは繋がれた手をじっと見つめた。手を繋いでみると、エルフリートの方が一回りくらい大きいのが分かる。同性にしか見えないが、そういうパーツの一つひとつは男性なのだ。

 もう少しで、きっと彼は女性騎士団からいなくなる。寂しいが、元からそういう約束だったのだから、感謝の言葉を送って、彼が去るのを見つめるしかできない。

 こうしてずっと共に過ごしてきたエルフリート。異性でも同性でも良い。エルフリートという存在が、ロスヴィータにとって大切なのだ。ロスヴィータは彼のいない女性騎士団の姿を想像し、心細い気持ちになった。


「ロス?」

「いや、何でもない」

「そう? あ、お店の看板が見えてきたよ!」


 思わず手に力を入れてしまい、彼が振り返る。公園の外灯とは異なる光が当たった彼は、年相応の青年に見えた。だがそれも一瞬で、彼はいつもの姿へと戻る。


「私ね、いっぱい食べたい!」


 そう言ってはしゃぐエルフリートに、ロスヴィータは苦笑しながら「さっき少し食べたではないか」とからかう。

 目的の店舗の扉を押せば、カランとベルの音が鳴り響く。喫茶店のような音にロスヴィータは目を瞬かせる。ベルの音に気付いた店員が足早に寄ってきた。

 恰幅の良い女性だが、気さくな雰囲気をしている。


「いらっしゃい、見かけない顔だけど……」

「ああ、初めてここに立ち寄ったんだ」


 エルフリートの代わりにロスヴィータが答える。宿の人に教えてもらったと伝えれば、店員はとても嬉しそうに笑った。


「あそこの宿の紹介なら大歓迎です! さあ、奥へ――」


 エルフリートとロスヴィータは顔を見合わせた。

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