99 ユークリッドが進む道
読んでくださり、ありがとうございました。
王の華美な執務室を出て、ユークリッドが向かったのは隣にある侍従の控室だ。
精鋭兵が部屋の護衛に待機し、ユークリッドと宰相が部屋に入る。
これから主要人物が集まってくることになる。
大きな机の周りは、様々な資料が収納された棚が取り囲んでいる。
ユークリッドが椅子の一つに座ると、宰相は隣に座り身体をユークリッドに傾けた。
「恐ろしい方ですね」
ユークリッドは片眉をひそめて宰相に視線を移す。
「王の警護をしていた近衛に自分達で選ぶように言われましたが、彼らは王を見限った後悔を埋める為に、自分達が選んだ新しい王へ強い忠誠を誓うでしょう」
それを分かっていて選ばせたのでしょう、と宰相は語り掛ける。
「私はね」
片肘をついて、トンと指で机をたたく。
「子供の頃から賢くってね、従兄である当時の王太子とよく比べられた。
それがうざくて、人間関係が面倒だった。
鉱物はいいよ、興味が尽きない。
けれど、侯爵を継ぐと侯爵領の管理が必要になり、研究の時間を作るのが難しくなった。だから、人を使うのさ」
ユークリッドは、トントンと机を指先で叩きながら続ける。
「彼らは、選んだ新しい国が間違わないように自ら模範となるだろう。
民は生活が豊かになることがわかれば真面目に働き、国は潤う」
「それは簡単で、難しい」
宰相はユークリッドの言わんとしていることを理解するが、理想と現実は違う。
王を私室に軟禁して戻ってきた司令官が、宰相とは反対側のユークリッドの隣に座った。
「イースデン公爵がこちらに向かってます」
それ以外にも登城の連絡のあった貴族の名前を連ねる。
王を軟禁したことで王の譲位が確定になったが、王派による奪還があるかもしれないし、王妃の処理もある。
何より国の根底から改造せねば、同じ過ちを繰り返す危険がある。
「トレファン侯爵、よくぞ受け入れてくださいました」
司令官が頭を下げると、宰相も続く。
竜が出現して、城前広場で名乗りをあげることになるとは思ってもいなかった。もっと時間をかける必要があると考えていた。
「民の為、なんて言わないよ」
両手を広げて、おどけるユークリッドである。
「あの娘が安心して暮らせる国でありたいと思ったからね。
きっと、王妃の冠が似合うと思う」
「アルチュール・ヴィスタルの妹ですよね」
宰相は補佐官のアルチュールを思い浮べる。
司令官もアルチュールの美貌は有名で知っている。
「さぞ、美しいご令嬢なのでしょう」
「姿はヴィスタル侯子に似て美しいが、性格は反対だな」
「心根の優しいご令嬢ということですね」
ユークリッドがアルチュールと反対と言うことに、対応した宰相のアルチュールに対しての評価が垣間見れる。
司令官は人嫌いで有名なトレファン侯爵が婚約したことを知っていたが、王位に就いてもいいと思わせる程に大事にしていると知って驚くばかりである。
「王の仕事はまじめにするよ。非効率な事は嫌いなんだ。君達も心得てくれまえ」
研究を中心に生活していたとはいえ、王族として教育されたユークリッドには威厳がある。




