95 兵士達の葛藤
王はバーミリオンの報告を受け、軍司令官を呼びつけたが、来たのは軍隊長だった。
「陛下、申し訳ありません。司令官は公開処刑に立ち会っております」
玉座に座る王は、肘掛に爪をたてるほど怒りがこみ上げていた。
「私が王だぞ! 公開処刑の許可を出していない!」
それどころか、内密に処刑をするはずだった。ダルトン子爵を処刑してしまえば、王妃の罪の証人が減るとさえ考えていた。
「王の許可なしに処刑を指令した宰相は謀反人である。
すぐさま宰相を捕らえよ!」
王の言葉に戸惑うばかりの隊長である。
司令官は宰相の護衛の為に、近衛を中心とした精鋭隊を同行させている。
隊長達は軍部での待機を命じられていたところに、王からの呼び出しがあったのだ。
「陛下、宰相閣下は城前広場にいらっしゃいます。そこには多くの民がつめかけ、宰相を捕縛となると民の反感をかってしまいます」
民を弄んでいるダルトン子爵を処刑したことで、宰相は民の味方だと喝采をあびているのだ。その目の前で捕縛したとなると、民の怒りを自分達が受ける事になる。
司令官が同行させている精鋭隊は高位貴族の子弟達が多く、軍部に残された兵は低位貴族や平民が多い。
王の命令に逆らうことはできないが、宰相を捕縛するのは司令官に反抗することになる。
「民がなんだというのだ。王は私だ。民が歯向かうなら、斬ってすてよ」
「陛下!」
王の言葉に声を荒げたのはバーミリオンである。
「それはダルトン子爵と同じです!民を守らずして国は成り立ちません!」
「庇護というのは、反抗する者に与えることはない。
国王として命令する。
宰相を捕らえよ。
反抗する者すべてを処罰することを許可する。
全軍を率いてすぐに行け!」
怒りも顕わに王命を出した王に、隊長は抗う術がない。転げ出るように部屋から飛び出すと、軍部に向かって走った。
「待て!」
王太子が声をかけるが、隊長が振り返ることはない。
軍司令部には司令官が同行させた精鋭隊より、圧倒的多数の兵士が控えている。
その軍を動かしてしまえば、内乱になるかもしれないと分かっている
だが、軍人であるかぎり、王の命令は絶対なのだ。
隊長は軍司令部に飛び込むと、叫んだ。
「王命である!宰相閣下捕縛のために全軍出動!」
「宰相閣下は民を虐げていた子爵に処罰を与えてくれた人ですよ!
それを捕縛とは、どういうことですか!」
「王命だ。抵抗する者は斬り捨てよとのことだ」
一気に騒乱となった軍司令部だが、真っ青な顔の隊長をみると間違いということはない。
「子爵を庇っていたのが王妃だというじゃないですか。
我々平民を守ろうとした宰相閣下を捕縛しろというのは、王も王妃と同じだ!」
平民出身の小隊長が叫んで、部隊長に掴みかかってくる。
「それでも、我々軍人は陛下に忠誠を誓っている」
部隊長の言葉に力はない。
「こういう時に陛下の覚えめでたくば、報奨があるかもしれない」
そういきりたったのは、男爵家出身の兵士だ。
家督を相続できる嫡男でなければ、自分の力で出世しなければならない。
同じ軍人でも、立場によって反応は様々である。
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