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94 ダルトン子爵の処刑

王と王太子も城内の不穏な空気を察していた。

昨夜のうちにダルトン子爵の処刑を指示したはずなのに、朝になっても実行した返事が来ないのだ。


「陛下、街の掲示板にビラが貼られています!」

王の執務室に諜報の男が駆け込んで来た。手には紙を持っている。


『本日正午、ダルトン子爵の刑を城前広場で実行する。

罪状は、悪戯(いたずら)に民の命を奪い、(もてあそ)んだことである』


紙を持つ王の手が怒りで震える。

「宰相を呼べ!」


だが、王の使者は宰相室の厳重な警備で中に入る事すらかなわなかった。


王は頭を抱えて座り込んだ。

反対に王太子バーミリオンは、苛立ちを隠せず部屋の中を歩き回っていた。

宰相は来ず、時間だけが過ぎ去って行く。

「絶対にダルトンの罪を公開させてはならない」

バーミリオンが王の執務室を飛び出した。


王妃が関与しているなどと知られる訳にいかないのだ。

自分の母ながら、国に害なす罪人としか思えない。


バーミリオンが護衛に囲まれて廊下を急いでいると、その姿を見つけたのはルシンダである。


「殿下!」

ルシンダが駆け寄ってくるのを護衛が止めようとするも、王太子が寵愛すると公言した側妃候補であるから強くには止められない。


「殿下!」

もう一度呼んで、ルシンダがバーミリオンの腕にしがみついた。

「最近はお部屋に来て下さらないから寂しいです」

ルシンダは甘えた高い声で、バーミリオンの注意をひこうとする。


バーミリオンはルシンダに視線をむけることなく、その手を振り払った。

「能無しのくせに、邪魔までするな」

ナーディアなら、状況を察して邪魔をしたりしないはずだ。第一、イースデン公爵家が王家のフォローをして、こんなことになっていない。

クソッ、クソッ、クソッ!

バーミリオンは、茫然としているルシンダを残して立ち去った。


宰相室の警備を開けさせて部屋に入るも、誰もいない。

すでに城前広場にいるのかもしれないと、バーミリオンは城前広場に向かう。


「うわぁぁ!!」


大歓声が聞こえて、バーミリオンは窓から外を見ると、広場を埋め尽くす観衆が集まって何か叫んでいる。

このまま広場に向かうのは危険だと、広場に面した2階のバルコニーに行き先を変えて駆け足で階段を上る。


バルコニーから見た広場には、処刑台に引きずり出されたダルトン子爵がいた。

泣き叫んでいるが、民衆の声に埋もれて聞くことはできない。

民衆の歓声は罵声である。

その鼓膜を振るわせる爆音にバーミリオンは民衆の怒りを知る。

ダルトンが民を殺したのは知っていた。だが、偽造紙幣製造は国家を揺るがす罪だ。それに目を取られていた。


僕はいくつ間違ってたんだろう。


ダルトンは引き摺られるように処刑台に連れていかれるが、ダルトンは身体中を使って抵抗をしている。

その無様さに、バーミリオンは笑いが込み上げてきた。


「あんな肝の小さな男が、王家を揺るがすと言うのか?」

分かっている、こんなことになったのは、王妃の裏切りと、王家の怠惰だ。


代官の横領も、偽造紙幣製造も、貴族が見つけ捕縛した。

そこにいたのは、ナーディアだ。

ナーディアと婚約したままなら、王家主導でできたのに。


恨みのこもった民衆の声が、バーミリオンの耳に響く。


宰相が出てきて右手を上げると、さらに大きな歓声が上がった。それは広間を覆い、まるで爆発したような音に宰相の声明も聞こえなかった。



読んでくださり、ありがとうございました。


とうとう宰相も、貴族側の立場をあらわしました。

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