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ゴトゴト揺れる馬車の中で、ナーディアとイレーヌは向かい合って座っていた。

馬車の横は、護衛の騎士が騎乗して並走している。


「私ね」

ナーディアはイレーヌに話しかける。それをイレーヌは待つことで返事にする。

「ちゃんと好きだったの。それが今は分からなくなった。本当に好きだったのかって」

それが王太子殿下のことだと、イレーヌもわかる。


優秀な王太子だが女性関係が派手で、婚約者のイースデン公爵令嬢はそれに耐えているように見えていた。

それが自分と同じように思えて、耐えていれば王妃になり、幸せになると思いたかった。

婚約解消を聞いた時は、裏切られたような気持になった。

今ならわかる、自分勝手だったとイレーヌは後悔している。


「他の人に心が移ったから、冷静に見ることができるのかな?

もっとカッコいい人だと思ってたの。 

私は変われたのかな?」

ナーディアの表情は、少し笑みを浮かべて独り言をいっているように見えたので、イレーヌは黙って聞くことにした。


「私が変わったから、殿下も変わったのかな?

殿下に嫌われないように、従順でいた。それは自分の気持ちを殺すことも多かったわ。

私は変わりたかった、ずっと。けど、怖くって、公爵家の娘として堂々としていないといけないって思ってたの。

本当は、殿下が他の女性を連れ歩くのが嫌だった。

結婚より先に側妃を決めるなんて、バカにしてるのかって苦しかった」

王家とイースデン公爵家の結婚の意味を分かっていたから、無くすなんてできないと思っていた。

「アーニデヒルト様の石を拾った事で、このままではいけないと思ったの」


「私も」

イレーヌがポツリと返事をした。


ナーディアもイレーヌの事情は分かっている。

イレーヌの婚約者も浮気者だった。

貴族は見目麗しい者が多いが、ヴィスタル侯爵家は特別だ。アルチュールを筆頭にイレーヌもどの令嬢よりも美しい。

以前のナーディアは美しいイレーヌが友人であることがステータスの一つだった。


「私も変われたでしょうか?」

イレーヌが首をかしげるのが、(はかな)く美しく見える。


ナーディアは溜息をついて、苦笑いした。

「アルチュールがすれば計算づくなんでしょうけど、イレーヌはそこまでじゃないから、アルチュールにいいように使われるのよね」

話がそれたわ、とナーディアは話を続ける。

「イレーヌも変わったと思うわ。

私もだけど、変ったところもあれば、変わるのに時間がかかるところもあるのかも。

以前の私より、今の私が好きよ。

イレーヌは?」


「私もです」

顔をあげたのに、イレーヌはまた(うつむ)いてしまった。

「触られるのも怖かったのに、この人としか結婚できない、と思ってた。

お兄様が(しか)ってくれなければ、わからないままだったわ」


『お前の浅はかさが恥ずかしい。ナーディアの盾ぐらいにはなるだろうから、勉強してこい』


「この人と結婚するのは絶対に無理って思えば、家族にも話をして婚約解消に向き合えたの」

ナーディアの場合は、アーニデヒルトの夢で愛人を大事にする夫に冤罪(えんざい)をかけられる恐怖が先だったのだが。


「ナーディアを見ていて、私も強くなりたいって思えたわ」

淑女教育で身に付けてきたことの全てが正しいわけじゃないと知った。

「グランデの街でナーディアと二人屋根裏に逃げて、私にも出来るって思えたの」


ナーディアとイレーヌは二人で微笑み合った。

「新しい婚約者がすぐに出来たのは、自分でもびっくりだったわ」

「だから、婚約者を大事にして、私達も大事にしてもらいましょうね」


「お兄様をよろしくお願いします。

ずいぶん俺様で、能力を(かさ)にして、美しいは正義だと押し付けるのだけど、優しいところもあるの」


「それを言えば、伯父様もだわ。

父親ほどの歳で、研究優先で屋敷に落ち着かない、社交の付き合いは嫌いだけど、身内は大事にするわ」


今度は二人で声を出して笑う。

屋敷に着いたら、腕を組み部屋に向かった。



読んでくださり、ありがとうございました。

ナーディアとイレーヌ、自分を変えたいと願い、自分で幸せを掴みに行きます。

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