9 石集めの障害
やはり頭を打ったに違いない。
アルチュールは自分の杞憂が当たったと確信した。
公爵令嬢が河原で穴を掘っている。それを毎日しているなど、自分の目で見て、報告書通りだと確認しても信じられないぐらいだ。
まともな貴族令嬢のすることではない。
護衛をつけているということは、イースデン公爵が知っているということだろうが、許可を出しているのだろうか?
一歩踏み出したアルチュールの足が河原の砂利に埋もれる。
「うわっ!」
あわてて足を砂利から引き抜くと、靴も服も泥に汚れ、濡れて気持ちが悪い。
「今日はシャンタンなのに、僕が汚れるなど許されることではない」
王都の高級テーラーの名前を挙げて、アルチュールは悲壮感を漂わせた。
「ごめんなさい、侯子。そこは昨日掘った所で、地面が緩くなっているかも」
後出しのようにナーディアが言うから、アルチュールは片眉を上げる。
「何度も言いますが、こんな所はご令嬢がいる場所ではないんです」
自分が汚れた為に、機嫌が悪いのが言葉にでている。
侯爵家嫡男で美しく知性の高い青年。それがアルチュール・エレセ・ヴィスタルであるが、高すぎる自意識が令嬢達から疎遠にされる理由である。
『鑑賞にはいいけど、横に立つのは遠慮したい』
そっと風が頬をなでた。
「アルチュール様、こんな気持ちのいい風、屋敷では感じられませんわ。
それに、もうすぐ日が暮れます。夕焼けの綺麗さを観てください」
アルチュールの不機嫌を無視して、ナーディアは河原の良さをアピールするが、それがかえってアルチュールをいらだたせた。
「暗くなるまで、こんな所にいるつもりですか!?」
そして他家の護衛とわかっていても、声をあげずにいられない。
「お前達は、主家の令嬢が危険になる可能性が高いのに何故に止めない!
主人の意に反しても安全を優先するのが忠義だろう!」
ナーディアを無理にでも連れ帰ろうと前に進んだアルチュールは、昨日か一昨日かその前かに掘り返した所に踏み出し、緩んだ砂利に足を取られて転んだ。
「僕の顔に傷が!!!」
石でちょっと顔をかすっただけなのに、アルチュールの叫びが河原に響いた。
自意識過剰のナルシストの認識だったけど、ここまで幼稚だとは思っていなかったわ、と声を出さずにナーディアはため息をついた。
そういう点では、王太子もそうよね。
結婚したら遊べなくなるから、今のうちに遊んでおくってことよね?
「もうちょっと大人になったら?」
ナーディアの呆れた声に、アルチュールは立ち上がり泥を払いながら、冷静さを装う。
「それは、こちらのセリフです。
やはり、馬車寄せでの事故の衝撃が残っているのですね。
今までのナーディア嬢と言動が違いすぎる。まるで魂が黄泉で入れ替わったかのようだ。
我が家での事故ならば、僕が必ず以前の慈愛に満ちたご令嬢に戻してさしあげましょう」
アルチュールの言葉にカチンと来たナーディアは変な対抗心を燃やす。
慈愛の令嬢、それで冤罪をかけられたらどうしょうもないじゃない。
その時に茜色の光が周りを照らす。
アルチュールもナーディアも光の先に視線をおくる。
夕陽が河をてらしながら、山に沈んでいく。
美しいのは間違いない。アルチュールもそれは認めた。
申し訳ありません。予約ができず、予定より早く投稿になってしまいました。
読んでくださり、ありがとうございました。




