88 公開処刑にむけて
宰相はナーディアの話を聞きながら、残念に思っていた。
イースデン公爵令嬢として生まれ、王太子の婚約者として教育を受けたのに傲慢に振る舞うことなく、民の命を大事に思っている。
ナーディア嬢こそ王妃に相応しい。
王太子がナーディア嬢を大事にしていれば、王家は安泰であり、民から慕われたはずだろう。
ナーディア嬢が王妃に相応しくとも、婚約者であるヴィスタル侯子は王にはむかない。
宰相補佐官として仕事は有能であるが、王として人心を掴むことはない。ナーディア嬢を大事にしているようだが、自分が一番美しく優れていると思っているのを知っている。
宰相は、ユークリッドに視線を向ける。
学者ゆえに思慮深く、今も状況を静かに見守っている。
だが、王家の血が濃いのに愛国心は乏しい。
研究の為に他国に長く逗留しており、広い視野を持っているが、それは自国を離れる事に戸惑いはない、ということだ。
だが、王家は傲慢すぎる。貴族との軋轢に危機感が薄い。
偽造紙幣製造に王妃がかかわっているというのに、王妃を幽閉した後は王妃の母国の弾圧を躊躇している王。
王太子は婚約者がありながら、幾人かの低位貴族の令嬢を恋人とし優遇した。
王も王太子も、自分達の権力に過信している。
「殿下、ヴィスタル侯子、今は決闘の時ではありません。抑えてください」
宰相は、睨み合っている二人の仲裁に入る。
「宰相!
こいつは王太子に歯向かったのだぞ!
自分の補佐官だからと庇うつもりか!」
激昂するバーミリオンに、冷めた声がかかる。
「殿下、宰相は優先順位を言ってるのです。
今は、ダルトン子爵の処罰の公開の是非を言ってるのです。
王家は偽造紙幣製造は内密にしたい、それは人心を惑わすというより、王妃陛下が関与していているからですよね?」
ユークリッドは椅子に座り、肩肘をついて言い放つ。
「母上は疑惑があるたけで、確定したわけではない」
「横領した代官を推薦したのも王妃陛下、ダルトン子爵からの奉納金も王妃陛下にでしたよね?」
ユークリッドの追求は止まらない。
「ダルトン子爵は、多くの民の命を奪った。
自分達を守ってくれない国に、誰も従いませんよ」
「母上の疑惑には憂慮している。確定するまでは王族としての尊厳を守らねばならない。民を守るためにも王家の安定が必要だ。
イースデン公爵家との確執は、国の不安要素だ。私も反省をしている」
だからナーディアが王家に嫁げと言わんばかりの王太子に、アルチュールの怒りが再燃する。
これだけ言われても固執する王太子に、宰相は頭の固さと無駄な自尊心をみる。
それを打ち破ったのもナーディアである。
「結局、最初に戻るなんて進歩がないのね」
呆れたようなナーディアの言葉には、バーミリオンに対する未練はない。
バーミリオンはナーディアに会いたかったが、ナーディアにとってはそれどころではない存在であった。
「宰相閣下、ダルトン子爵の公開処刑は王家の許可が必要ですか?」
「大臣会議で決定して陛下が認可する形てすが、陛下が認可しないことはないでしょう。
ただし、大臣会議でダルトン子爵の偽造紙幣製造を公表することになります」
宰相に代わりに答えたのは、アルチュールだ。
「では、イースデン公爵であるお父様に会議を招集してもらいましょう」
ナーディアが微笑むと、バーミリオンは王に報告するべく宰相室を飛び出した。
読んでくださり、ありがとうございました。
バーミリオンは、ナーディアが変わったことを認めたくなかったでしょうが、過去をなくすことはできません。




