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85 ダルトン子爵の処理

トレファン侯爵邸にナーディアの声が響いた。

「ダルトン子爵の罪を暴くためにグランデの街に行ったのに、罪が大きいから内密に処刑するなんて」


「偽造紙幣なんて罪が民衆に知られれば、暴動が起こるかもしれないんだ」

ユークリッドはナーディアを落ちかせようと言葉を選んでいるが、ナーディアは納得をしない。

こんな子だったか?

妹の子供ということで、ナーディアの幼い頃から知っているが、大人しく周りに従順の娘だった。

妹からナーディアに付き添って欲しいと連絡が来た時は、研究が一段落しグランデの街に興味があったので承諾しただけだった。

王太子との婚約を解消して静養していると聞いていたから、精神的に傷ついて目を離せない状態なのかと思っていた。

それが杞憂だったのは喜ばしいことだが、ナーディアは以前とは変わっていた。

貴族の令嬢としては失格だ。だが、自分の意見を言い、輝いて見えた。


トレファン侯爵邸には、ナーディアとイレーヌに会いに、アルチュール、ユークリッド、エルフレッドが集まって来ていた。


「ダルトン子爵はたくさんの人々を死傷させているわ。それも、自分の気まぐれで、何回も。

なのに貴族だからと許される。

だから、ダルトン子爵の罪を暴くためにグランデの街に行ったの。そこに平民を(さら)って集めていたから」

ナーディアはユークリッドに一歩も引かない。

「罪もなく殺されたテトの復讐をするためよ。

内密に処刑をされたら、ダルトン子爵の死を知らない人々はずっと怯えながら暮らさないといけない。

ダルトン子爵に殺された人達の無念や、遺族の恨みをはらすために罪を受けさせたいの」


「ナーディア、テトというのは?」

横で聞いているイレーヌは、河原の事を知らない。


ナーディアの代わりにアルチュールが答えた。ナーディアよりは冷静に説明できると思ったらしい。

「ナーディアが河原で石を集めていた時に知り合った平民の子供だ。

ダルトン子爵の馬車が、通行中の平民達の中に突っ込み、テトは亡くなった。

ダルトン子爵は、故意にそういうことを繰り返していたらしい。過去に何件も事故を起こして、死傷者が大勢いる。

ナーディアはテトの現場に居合わせて、謝罪もなく去って行くダルトン子爵に罪を認めさせようとした。

それで、ダルトン子爵を調べていくうちに、グランデの街に屋敷を買い怪しい事をしている可能性があると乗り込んだんだ。

ナーディアにとって偽造紙幣より、テトの命の方が重要だと思う」


ここに居るのは全員が高位貴族だ。平民と貴族は違うと教育されている。

だが、留学していたエルフレッドと研究のために外国に行くことが多いユークリッドは、他国がもっと平民を大事にしているのを知っている。


「ナーディアは、アーニデヒルト様の影響でそう思うの?」

イレーヌは貴族は高貴な存在と教えられてきたが、グランデの街での事で大きく変わった。


「そうかも知れないし、そうじゃないかもしれない。

石を集めるのに河原に行き始めて、知らないことがたくさんあると知ったわ。

下町と言われるけど、生活があって、ここもこの国で、国民なのよ」


「ナーディアが河原で石を集めている時、私は悪意があると分かっていながら、その噂を広めるようなことをした。恥ずべきことだわ。

私もテトにお会いしたかったわ」

しんみりと言うイレーヌの肩をユークリッドが抱き寄せた。


「偽造紙幣を秘密にしたいのは王家だ。たしかに暴動の心配はある。

だが、偽造されたのは高額紙幣で民衆の被害は少ないだろう」

エルフレッドが両手をあげて、おどけたふりをする。


「僕はナーディアの意志を優先したい。

民意は、自分達を(しいた)げてきたダルトン子爵の処刑を見る事だと思う。公開にすべきだ」

アルチュールはナーディアの支持につく。


公開処刑ということに、夢でみたアーニデヒルトの姿を連想したが、アーニデヒルトは冤罪で、ダルトン子爵の罪は間違いないと、ナーディアは思う。


アルチュールとエルフレッドの視線を受けて、ユークリッドがあわてる。

「まさか、私に交渉しろと言うのか?!」


「この中で、宰相と対等に話せるのは侯爵だけですから」

アルチュールが片眉をあげて話すのを見て、ナーディアは笑顔を見せた。



読んでいただき、ありがとうございました。

どんどん、王家との亀裂が広まっていくようです。

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