83 慰謝料
国の混乱をさけるためにも、偽造紙幣の事は公にできない。
王妃の罪は、不貞という事で幽閉されることになった。
王妃と王妃の不貞相手の商人も、偽造紙幣など見たこともないと言い張った。確実な証拠がないと分かっているようだ。
王妃が信任している侍女は、目を離したすきに自殺をしてしまった。
それこそが王妃の罪を隠すためだと明らかだったが、証拠になるわけでもなかった。
多くの偽造紙幣が流通していなかったのは喜ばしいことだが、王家の財産が盗られて替わりに偽装紙幣が置かれていた事実は変わらない。金庫室の全部がすり替えられていたのではないが、巨額な金額の喪失である。
イースデン公爵家にバーミリオン王太子が訪れていた。
ナーディアとバーミリオンの婚約解消の慰謝料の期限がせまっているからである。
「現金で支払う約定であったが、王家所有のカラハ銅山でどうだろうか?」
まさか偽造紙幣で支払うわけにもいかず、かといって残っている紙幣で払いつくすことも危険である。それで現物で支払うことになり、王と王太子で協議してカラハ銅山などいくつかの領地を候補に決めた。
イースデン公爵の方眉があがる。
「銅山だけをいただいても、我が家の領地と離れていますし鉱夫のあてもありません、銅の精製技術もありません」
カラハ銅山は受け入れられない、と公爵は断る。
「娘が殿下の婚約者として過ごした多くの時間は辛いものでした。殿下は、娘にも心があると思われなかったか?
金なら我が家にもあります。だが、慰謝料という形であっても娘の心の傷を分かって欲しい。
約定が難しくなったから、金の代わりの物でもよかろう、いうわけではない。
加害者の殿下の都合で、被害者を振り回せるとお思いか?」
バーミリオンは言葉に詰まってしまった。
王である父と、慰謝料の金額と同等かそれ以上の価値のあるものならよかろう、と決めたのだ。
せめて、イースデン公爵家に確認をしてからにすればよかった。
「ナーディアを傷つけたことは、遅まきながら分かっている。取り返しのつかないことをした」
できるなら、ナーディアとやり直したい。
ルシンダにどうしてあんなに傾倒したのか、自分でもわからない。
ナーディアのいいところならいくつも言えるのに、ルシンダのいいところが思いつかない。
なにより、ナーディアがいなくなった心に穴が開いているようだ。
バーミリオンは、イースデン公爵家に来れば、ナーディアに会えるのではないかと期待をして来た。
少しでも、ナーディアの姿を見れないか、と期待してしまう。
「ナーディアに、謝りたい」
「娘が事件に巻き込まれたことはご存知でしょう?
今は、安全なところで休養をしています。
たて続けにいろいろありすぎて、身体が悲鳴をあげたようです」
「ナーディアはどこか悪いのか?」
それなら、新しい婚約者との結婚は無理ではないか、と期待をする。
「殿下には関係のないことです。息子が帰ってきましたし、婚約者もこまめに見舞っているようです」
イースデン公爵はバーミリオンの心を読んだかのように、バーミリオンの期待を潰した。
「そうだな。
約定では金銭による慰謝料だが、他の形でいいものか検討して欲しい」
バーミリオンは力なく言った。
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