80 宰相
宰相はこめかみを指でつまみ、背中を椅子に預けると溜息をついた。
「閣下、少し休んでください。ほとんどご自宅にも戻られておりませんし」
補佐官の一人がお茶のカップを机に置きながら、 宰相の顔色を伺っている。
「ああ、ありがとう。いい香りだ」
宰相はカップを手に取ると笑顔を見せる。
代官による直轄地補助金の横領、偽造紙幣の製造。次々と明るみになる不正に時間がいくらあっても足りない状況である。
「皆も同じ状況だろう。事が事だけに、単純に人手を増やすことができない。
極秘資料ばかりだ、信頼のおける者だけで処理をしなければならない。
悪いが、もうしばらく頑張ってくれ」
宰相は、マリーリオ公爵の弟であるラング・マリーリオ。穏やかな性格で王の信任も厚く、貴族と王家の橋渡しの一人である。
「閣下、こちらの資料をご覧ください」
大発見をしたかのように、補佐官がダルトン子爵邸から押収した資料の一つを広げる。
「偽造紙幣は、ガナッシュの港街から船に乗せられたようです。
船の発着を許可しているのは、ガナッシュの港街の代官。
その代官は、王妃陛下の推薦で任命されてます」
「王妃だと?」
宰相室にいる誰もが、点と点が繋がったと考えた。
王妃という権力者がバックにいる。
だが、王妃の動機が思いつかない。
王との夫婦仲は、政略であるが悪くはない。
「ダルトン子爵と王妃の面識があるか、調べてくれ」
宰相は、補佐官に指示すると財務部に王妃の資産状況を確認するために部屋を出た。
アルチュールが出仕して、すぐに宰相が戻ってきた。
「ただいま戻りました。昨日はありがとうございました」
「それで、妹君は大丈夫ですか?」
宰相はイースデン公爵から手紙を受け取っており、あらましの事は知っているが、アルチュールの報告を待っていた。
宰相室では、誰もが資料と葛藤し、調べていた。
地道な作業の積み重ねが、大きな結果になると皆は思っている。
アルチュールから話を聞くと、宰相は早速立ち上がり、王の執務室に向かう。
トーマスは伯爵子息、伯爵家の処分は王の判断を仰ぐしかない。
王太子とイースデン公爵令嬢の婚約が解消となり、先の不安は拭えない。
何より、イースデン公爵令嬢が関わることで、代官の横領、偽造紙幣製造、の発見に繋がっている。
宰相がイースデン公爵令嬢の事を考えているうちに、王の執務室に着いた。
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