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8 アルチュールの興味

翌日には、イースデン公爵家の家令がヴィスタル侯爵家を訪れ、壁の修理の補償の話し合いがされた。

それに対応したのは、アルチュール・エレセ・ヴィスタルである。

イースデン公爵家からの馬を休ませた時の苦情はなく、スムーズに話が進んだが気になるのはナーディアのことだ。

「イースデン公爵令嬢はすぐに帰られたのだが、ケガはなかったのだろうか?

馬車が傾いて壁に衝突したのだ、無理して帰ったのだろうと心配しております」

アルチュールが心配するのは、茶会を主催したヴィスタル侯爵家として当然のことで、

「妹も大変心配しております」

と言えば、イースデン公爵家の家令デゼールは頭を下げて口を開いた。

「ヴィスタル侯子のお言葉に、我が主イースデン公爵も感謝しているとお伝えいたします。

昨日お嬢様が戻られて主治医の診察を受け、左手を少し打撲していると診察されました。

公爵は心配されたのですが、お嬢様はたいしたことはないと明るく振る舞っておいでです」


デゼールが強調するように明るく振る舞っていると言うのは、ケガのことか他のことか、両方かもしれないな、とアルチュールは理解する。

「ご令嬢のケガは、ヴィスタル侯爵家にも責任の一端があります」

アルチュールが見舞いに(うかが)いたいと言うと、デゼールの立場では拒否することも出来ず言葉を(にご)したが、アルチュールの追及にナーディアは出かけていると言うしかなかった。

公爵令嬢がケガを押して出かけるというのは、よほどの要件なのだろうと家令への追及を終えたが、子飼いの者にナーディアの外出先を探らせた。


そして二日後、アルチュールはナーディアの外出先を知る。

護衛を引き連れて動いているので、調べるのは簡単だったようだ。それに下町ではすでに噂になっているらしい。

毎日、公爵令嬢が河原で半日ほどいれば目立つ。

だが、あの事故でナーディアが頭を打って奇行に走っているのではと責任を感じていた。


「ほんとにいた」

報告を受けたアルチュールは王都の河原に来ていた。

そこには、護衛に囲まれて河原で何かしているナーディアがいた。

河原に来るまでも、王都の下町を通り、すえた匂いや浮浪者の姿を見るにつけ、公爵令嬢がこんなところを通ったなど信じられなかった。


「ナーディア嬢」

アルチュールのかけた声に、ナーディアが振り返った。下町の河原に不似合いなキラキラした容姿のアルチュールに、ナーディアは眉をひそめる。

ナーディアも初日にレースのドレスの裾をドロドロにしたが、アルチュールは貴公子らしい磨き上げられた靴をすでに汚している。

「ごきげんよう、アルチュール様。ここは足場が悪くって、靴が汚れましてよ?」

ナーディアの言葉にアルチュールは自分の足元を見る。


「それはナーディア嬢にも言いたいぐらいです。僕にこんな所は似合わないように、公爵令嬢にも似合いません」

アルチュールの言葉を無視して、ナーディアは(かが)んで河原に穴を掘る作業の続きを始めた。

護衛達は危険が及ばないように周りに注意をはらっているが、すでに諦めたようにナーディアの行動を止めない。


靴がさらに汚れるのは嫌だと思いながら、アルチュールはナーディアに近づく。

何をしているのか気になるのと、事故のケガが気になるのだ。

足場の悪い河原で貴族の靴は不向きだ。これが軍の靴なら違ったかもしれない。足を乗せた石がぐらつき、バランスを崩したアルチュールは手をついてしまった。

「うわぁ! 僕の美しい手が!!」

貴族は下町の河原など来ることもなく、汚いと思い込んでいる。アルチュールもそうである。


「うふっふ」

アルチュールの様子を見て、ナーディアが声をあげて笑った。

その姿にアルチュールは驚いた。王宮でみかけるナーディアは王太子の婚約者として威厳(いげん)があり、貴族令嬢そのもので美しい。

けれど、下町の河原で笑い声をあげるナーディアが輝いて見えるのだ。


読んでくださり、ありがとうございました。

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