77 ユークリッドの怒り
残酷な表現があります。気を付けてお読みください。
コツコツ、足音が地下に響く。
ヴィスタル侯爵邸の地下に、男達が集まっていた。そこに遅れて来たのは、イースデン公爵。
拷問室などあるはずもなく、ワインや保存食を置く為の地下室だ。
「そいつか?」
「はい」
イースデン公爵に、アルチュールが短い返事をする。
トーマスは大きな机に寝かされ、両手両足が縛られていた。それだけでなく、顔も動かないように縛って固定されている。
「トーマス・ダフネア。ヴィスタル侯爵令嬢の元婚約者で、ダフネア伯爵の嫡男です」
ユークレッド・トレファン侯爵とゼグウェイ・イースデン公爵は義理の兄弟にあたる。ユークリッドが義理兄にあたるのだが、爵位が上のイースデン公爵には敬語になる。
「ああ、お茶の予定だったそうだな。それでナーディアが巻き込まれた」
イースデン公爵が目配せすると、護衛が横に揃う。
「任せていただきたい。公爵にはダフネア伯爵家をお願いしたい」
ユークリッドの言葉に頷いて、イースデン公爵は背を向けた。
「すぐに伯爵家ではなくなるがな。そして嫡男は行方不明だ」
それは、トーマスを自由に処分してよい、と許可がでたのだ。イースデン公爵は護衛を引き連れて地下から出て行った。
王家にも軍にも、ヴィスタル侯爵家でのことは報告されない。
王宮では、宰相がエルフレッドを通じて知っているだけだ。王家と高位貴族の間には深い溝ができていた。
「さて、起きてますよね?」
ユークリッドがトーマスに語り掛ける。
「首元に剣を突きつけられて、どれほど怖かったか。なのに冷静に行動して、君はイレーヌに負けたのだよ」
ユークリッドは天井からぶら下がった紐に短剣を吊り下げる。それをトーマスの目に上に来るように調整をしたら、目の上数センチのところで剣が揺れた。
「ぅうう!」
猿轡をされ、身体と顔を固定され、瞼が閉じないように、テープで固定されたトーマスである。
今にも落ちそうな剣先が、トーマスの目の上にあるのだ。
恐怖でトーマスに冷や汗が流れる。身体をよじろうにも、固く縛られ、机の上に寝かされて固定されているのだ。
「!!!」
縛られているトーマスの身体が跳ねた。
「侯爵、血が飛びました。僕が汚れます」
文句を言っているのはアルチュールである。
ユークリッドが剣を、トーマスの股間に刺していた。
「こんなのいらないよね?」
トーマスが痛みで暴れるも、机に縛られているため、机がガタガタ音をたてている。あまりに暴れるから、目の前の剣に瞳が触れたようだ。
「ぁぁぁ!!」
猿轡を噛まされた口からは、涎と単語にならない声だけが押し出される。
ユークリッドは蝋燭を持つと、溶けて流れる蝋をトーマスの手に落とす。
ジュウ。
肌の焼ける音が地下に響く。
「彼女の腕には力任せに握られた後があった。この手もいらないよね」
アルチュールは椅子に座り、ユークリッドを見ていた。
簡単に死なせはしない。
ただ、苦しめるだけの拷問が地下で続く。
読んでくださり、ありがとうございました。




