71 二つのカップル
妹のことは父のヴィスタル侯爵に委ねて、アルチュールはイースデン公爵邸に向かった。
馬に飛び乗り、途中の花屋で花を買ってイースデン公爵邸の扉を叩いた。
玄関で待っていると、ナーディアが姿を現した。
「アルチュール様、こんな所ではなく応接室で待っていてくだされば」
「いや、すぐに王宮に戻らねばならないから」
バサッ、花をナーディアの目の前に差し出したら、一瞬おどろいた様子だがすぐに笑顔になった。
ナーディアが花を受け取って胸に抱え持つ姿に、アルチュールの頬が緩む。
「自分でもらしくないと思うけど、ナーディアに少しでも会いたかった」
ユークリッドとイレーヌの姿に刺激されたが、会いたかったのは間違いない。
「すぐに王宮につめるような事になってすまない。グランデの街でのショックが強かったのに見舞いにも来れなかった」
「今、来てくれましたわ」
ナーディアがそっと手を添える。
華やかな王太子の婚約者時代、そこにはなかったものが今はわかる。
「私もお会いできて、うれしいです」
この一言が、今は言える。
アルチュールの気持ちが嬉しい。
「アーニデヒルト様とは連絡が取れた?」
「それが、あれからも姿どころか声も聞こえないの」
アルチュールとナーディアは短い会話を楽しむ。
「また来るよ」
慌ただしく去って行こうとして、アルチュールは足を止めた。
おもむろに振り返ると、ナーディアに駆け寄り、額に口づけをする。
使用人が開けた扉から出ていくアルチュールを見送って、ナーディアは額に手を当てた。
「こんなこと、困る。どうしたらいいの?」
真っ赤になって話すナーディアの表情は明るかった。
程なくして、ユークリッド・トレファン侯爵とイレーヌ・ヴィスタルの婚約が公開された。
トーマスは、悔しさでいっぱいであった。
自分の浮気が原因なのに、それは都合よくけ忘れられ、イレーヌが裏切ったと思っていた。
イレーヌがトレファン侯爵を誘惑した、と噂を流したが、前回程は広がらなかった。
イレーヌがユークリッドと婚約したことで、イレーヌの噂が真実ではない、と皆が思ったこともあるが、ヴィスタル侯爵家とトレファン侯爵家が手を回していた。
そして、トーマス宛に決闘状が届いたのだ。
差出人は、ユークリッド・トレファン。
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