64 王太子と貴族の亀裂
「婚約者? 気が触れた女でもイースデン公爵家の娘だからな」
バーミリオンは、アルチュールがナーディアの婚約者と名乗ることが面白くない。婚約解消されて、自分がナーディアから捨てられたようで認める訳にはいかない。
アルチュールは、バーミリオンを見下したように口角をあげる。
「殿下は決闘が恐いらしい。僕を挑発して取りやめを狙っているようですね」
「バカにするな!」
バーミリオンが声を荒げて、ユークリッドが仲裁に入って来た。
「ヴィスタル侯子、殿下に言葉が過ぎます」
バーミリオンはユークリッドが味方かと喜色を浮かべたが、次の言葉に全否定を受ける。
「ヴィスタル侯子が決闘を申し込まねば、私が申し込んでいたでしょう。
殿下は自分の都合のいいように考えるようですが、それでは為政者として問題があります。
低位貴族では令嬢に政治の勉強を与える家は少ないようですから、その影響でしょうか?」
バーミリオンの恋人達が低位貴族の娘ばかりなのを皮肉っている。
「可愛い姪と、お預かりしているご令嬢を貶されて、トレファン侯爵家としても抗議させていただく。
殿下は後発隊の指揮としていらっしゃったようですが、邪魔でしかありません」
ユークリッドは王太子に対して、堂々と無能だと言い切る。
「貴様! 私は王太子だ!」
叫ぶバーミリオンを、ベンベルグ隊長が抑える。
「殿下、後発隊がすべきことはたくさんあります。今は私情を抑えてください。
決闘の件は、私が預かり王都に戻ってからの話です」
ベンベルグ隊長が横目でアルチュールを見ると、頷いているので同意を得たらしい。
アルチュールとユークリッドはバーミリオンを見限って、ダルトン子爵の連行の指示の為に踵を返した。
それが、バーミリオンには腹立たしい。
自分とナーディアの婚約は王家と高位貴族との融合の為のもの。それが無くなったのはこういうことだと、身をもって知った。
ナーディアが正妃になるのだから、側妃の一人や二人を大袈裟にするな。今まで、私の恋人達を黙認してきたではないか。
トレファン侯爵家は王家に近い血筋だ。現にユークリッド・トレファン侯爵は王位継承権を持っている。
そのユークリッド・トレファン侯爵が、ヴィスタル侯子についたのが、バーミリオンをさらに苛立たせる。
だが今はそれどころではない、というのも分かっているから、ベンベルグに促されて後発隊の指揮にあたる。
そして押収された偽造紙幣を見て、想像以上の事態だということも分かっている。
用意された部屋で、ナーディアとイレーヌは寄り添ってソファに座っていた。
すぐ側にはエルフレッドがいて、宿での状況を詳しく聞いている。
アーニデヒルトがエルフレッド達に連絡してきた時も力ない声だったが、それからナーディアも連絡がとれないという。
「そうか、ナーディアでも連絡がとれないなら、アーニデヒルト様から連絡があるのを待つしかないな。
だがアーニデヒルト様が知らせてくれたから、僕達は宿に行けたし、間に合ったと思う。感謝しかない」
エルフレッドは、アーニデヒルトという不思議な存在が我々の味方ということの大きさを考えていた。
読んでくださり、ありがとうございました。
王太子バーミリオン、ダメさ加減が加速してます。




