63 王太子の失言
エルフレッドが騎乗し、馬車にはナーディアとイレーヌ、ユークリッドとアルチュールが乗ってダルトン子爵邸に着いた。
後発隊が着いたので、ダルトン子爵の連行、押収した証拠物品の搬送など、ユークリッドの指示が必要になって来る。
護衛もいない宿に、ナーディアとイレーヌを置いておくわけにはいかず、ダルトン子爵邸に連れて来たのだが、ダルトン子爵邸の惨状は宿の比ではなく壮絶といえるものなので、男達は二人を連れて来たくないのが本音であった。
馬車が着くと皆の視線が集まる。
馭者が馬車の扉を開けると、ユークリッドが降りて来て続いて降りるイレーヌに手を差し出す。
足元をふらつかせながら馬車から降りるのを、ユークリッドが支えてイレーヌが顔を上げると、後発隊の騎士達から感嘆の声があがる。
元々の華やかな美しさに陰りがあって、美貌といえるものだったからだ。
その後にアルチュールが降り、ナーディアをエスコートしている。ナーディアは身体をアルチュールに預けて弱々しく歩いているが、瞳には輝きを持っていた。
あんな女だったか、バーミリオンはナーディアから目が離せない。
弱っていても誇り高く、美しい。
あれが、気が触れた女なのか。
ナーディアがアルチュールに頼っている姿に胸がざわつく。
ユークリッドとアルチュールは、エルフレッドにナーディアとイレーヌを預けると、バーミリオン王太子とベンベルグ隊長の元に近づいてきた。
「王太子殿下、このような所までご足労様です」
体裁だけ整えたような挨拶をユークリッドがする。お前なんて邪魔だ、というのが本音だ。
アルチュールは、バーミリオンが放火魔としてナーディアを拘束する指示をだした事を知っているので、なおさらである。
バーミリオンの失策続きで失った信頼を得る為に、イースデン公爵家に協力するというのが王の狙いで王太子を派遣したのだろう、というのが誰の目にもあきらかだった。
エルフレッドがダルトン子爵邸での惨状から避けるように、ナーディアとイレーヌを階上の部屋に連れて行くのがバーミリオンは面白くない。
「婚約を解消したとはいえ、王太子の私が来ているのに挨拶もなく立ち去るというのはいかがなものか」
礼儀もできないのか、とバーミリオンがナーディアを貶める。
「姪たちは」
ユークリッドは怒りに声が震えた。
「待機していた宿に賊が押し入り、護衛が殉死する中、自分達で隠れ場所を探し緊迫する状況でも、助けが来るまで二人で息を殺して隠れていたのです。
それがどれほどの勇気と精神力がいるか!
二人が心身ともに疲れ果てている姿をご覧になったのに、令嬢の身を案ずるのではなく、挨拶に来いと?」
「はっ!?
助けが来るまで時間があったのだろう?
守ってくれる護衛が死んでしまったなら、賊が女性にすることなど決まっている」
バーミリオンも令嬢を辱めるなど紳士にのいう事ではないと分かっているが、ナーディアがアルチュールに寄りかかっている姿が腹立たしいのだ。
バーミリオンの言葉が聞こえたベンベルグ隊長もユークリッドも、怒りで身体が震える。
バシンッ!!
バーミリオンの顔に手袋が叩きつけられた。
「婚約者と妹の名誉のため、王太子殿下に決闘を申し込む」
怒りを隠し冷淡に立つアルチュールがいた。
「まさか、逃げるなんてしませんよね?」
「私が承認として立ち合おう。ご令嬢を貶した言葉は許せるものではありません」
ベンベルグ隊長が、アルチュールとバーミリオンの間に入るように前に出た。
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