56 ダルトン子爵邸襲撃
まだ暗闇の中、宿の前には男達が乗る馬が荒い息をはいていた。
東の空が薄ら明かるくなると一斉に馬が走り出し、土煙をあげて暗闇の街に消えて行った。
ナーディアとイレーヌはその姿を宿の玄関で見送ったが、玄関の奥では宿の主人夫婦が柱の陰で震えていた。
主人夫婦にすれば、宿に来たのは裕福な商人と思える4人と護衛が3人、馭者1人だった。だが、空いている部屋を押さえ、泊まっていた旅人が出立すると全部の部屋を貸し切り状態にした。
それだけでも異常だったのに、昨夜には軍人が宿に入って来たのだ。
朝まで食堂には近づくなと指示され、何か恐ろしいことに巻き込まれていると思わざるを得ない状況になっている。
ナーディアは主人夫婦の側に寄ると、震えあがる夫婦に声をかけた。
「貴方達に危害が及ぶことはありません。安心してください」
「は、はい」
安心などできるはずもないが、主人は肯定の返事をするしかなかった。
ナーディアとイレーヌが部屋に戻るのを護衛が警備する。王都に手紙を運ぶ使者として一人が減ったので、護衛は2人である。
大きな街だが、馬で走るとすぐにダルトン子爵邸に着いた。
馬を停めてユークリッドが片手を上げると、それを合図にアッシュフォード・ベンベルグが先陣を切った。
馬の前足で門扉を蹴破ると、大きな音が響き渡った。すぐに屋敷の用心棒が集まってくるだろう。
ダルトン子爵邸には玄関扉から正面突破する部隊と、裏口から隠し通路に入る部隊に分かれて突入する。
早朝の時間のため、朝食の準備の使用人しか起きておらず、ダルトン子爵をはじめ、多くの使用人がまだ寝ていたために、正面から入ったアッシュフォード達は一気に屋敷の奥まで進み、ここでさらにダルトン子爵を取り押さえる部隊と、地下に向かう部隊に分かれた。
だが、地下への入り口は用心棒達が守っており、戦闘が始まる。寝ていた用心棒達も集ってきたが、第一部隊の騎士達に斬られて倒れていく。用心棒達の人数は多いが寄せ集めであり、精鋭揃いの軍隊に敵うはずもない。
裏口から入った部隊は、隠し通路の経験のあるエルフレッドを先頭にして進む。大声や剣を打ちあう音が聞こえていて、正面突破の部隊が戦闘に入ったことを理解して緊張を高める。
アッシュフォード達の乱闘の騒ぎで、エルフレッド達が隠し通路を通っている音に気付かれることはなく、偽造紙幣を印刷している部屋までたどり着けた。
バーン!
ダルトン子爵の寝室の扉が勢いよく押し開かれる。
扉が開いた瞬間に騎士は突入してベッドに飛び乗り、音に起きたばかりの子爵を拘束する。
「なんだ!? お前達は!」
身体を拘束されて叫びもがく子爵の目に入ったのは、寝室に入って来るユークリッドの姿だった。
「トレファン侯爵!!」
ユークリッドを見てダルトン子爵は、ただの物取りではないと悟った。自分を拘束しているのは軍服を着ている、これは王国軍。
まさか・・。
「自害しないよう猿轡をさせてくれ。子爵にはいろいと聞きたいことがあるから」
ユークリッドの指示で騎士がダルトン子爵に猿轡をすると、ダルトン子爵は呻き声をあげて暴れる。
ダルトン子爵は、馬車の故障で屋敷に来た美しいイレーヌを攫うように街の破落戸達に依頼を出していた。
自分の妾として手に入れようと思っていたが、まさか自分が捕まるとは思っていなかった。破落戸達がイレーヌを誘拐できたなら、自分の身柄と交換できるのはないかと考えた。
読んでくださり、ありがとうございました。




