55 アルチュール達の合流
アルチュールは片眉をあげると、妹のイレーヌを見た。
ナーディアがイレーヌを庇うように、イレーヌの前に立つと、アルチュールは興味を無くしたように視線をベンベルグ隊長に戻した。
王都から来た精鋭隊は、すでにユークリッド、エルフレッドから詳細の説明を受けていた。
アルチュールは椅子を引寄せて、話の和に入る。
食堂のテーブルの上には、ナーディア手書きの地図が広げられ、ナーディアが描いた印以外に多くの印や文字が書き込まれている。
食堂は人払いがされているが、騎士の一人が警備に立っている。
ナーディアとイーリスは、ユークリッドとエルフレッドの近くに座り、話を聞いている。
「トレファン侯爵、こちらが宰相から預かりました親書になります」
アルチュールは蜜蠟がされた封書を差し出す。そして、エルフレッドにはイースデン公爵からの手紙が渡された。
二人が読んでいる間、騎士の一人が全員に茶を淹れて回った。野営訓練もあるので、簡単な食事を作れる騎士もいるようだ。
アルチュールはお茶を一口飲むと、手櫛で髪を整え、強行軍で乱れた衣類を整えている。
「あれがお兄様よ。部屋には5個も鏡を置いているの」
イレーヌがナーディアに囁く。
「噂通りね」
「お兄様には、美しいが正義なの」
コソコソとナーディアとイレーヌが言っているのを、アルチュールにも聞こえているだろうが平気なようだ。
「自分に厳しく、他人にも厳しくよ」
イレーヌの言葉に、ナーディアはイレーヌの幼少時代を思うと、きっとアルチュールから叱咤されて育ったのだろう、と簡単に想像できた。
『まだ、出来ないのか、努力が足りない』
『僕ほど美しくないのだから、センスを磨くしかないだろう』
可哀そうに・・・
ナーディアはエルフレッドを見て安堵した。普通の兄でよかった。
「宰相より、私に今回の全権が委ねられた。行使に当たり、ヴィスタル侯子が宰相補佐としてつくことになった。
だが摘発など経験もなく、ベンベルグ隊長に助力をお願いしたい」
親書を読み終えたユークリッドは皆を見渡した。
偽造紙幣製造現場への突入という、前代未聞の摘発に全員の表情が引き締まる。
背後関係は分かっておらず、どれほどの危険があるか計りしれない。だが、ダルトン子爵邸にある偽造紙幣を世間に流出させるわけにいかない。
「偽造紙幣がすでに印刷されているので、緊急に偽造紙幣を取り押さえる必要があります」
アッシュフォード・ベンベルグが立ちあがり、地図の出入り口を指す。
そして、騎士達を3個のグループに分けると、その出入口に配置する。
「トレファン侯爵、イースデン公子、ヴィスタル侯子も戦力として参戦していただきます」
そう言いながらも、ベンベルグ隊長はユークリッドを最後部の指示役として配置している。
ユークリッドは学者として危険な鉱山などに入山することもあり身体は鍛えられているが、皆の父親のような年齢なので、交戦になったら皆と同じようには動けない。
「決行は明日、日の出とする。
ダルトン子爵邸には、用心棒と思われる人間が多くいた。皆、気を付けてくれ」
ユークリッドの言葉に、男達は上官にする軍の敬礼をして返事をした。
読んでくださり、ありがとうございました。




