50 イレーヌの懺悔
ここでどんな言葉をかけていいか分からなくって、ナーディアは言葉に詰まってしまった。
「すごく怖かったです。ダルトン子爵にバレたらどうしようって、そればかり考えていて。
私達どうなるのだろう、侯爵と公子は捕まるのだろうか、って。
どうして、こんなとこにお兄様は行けといったのか、とか」
イレーヌと同じことをナーディアも考えていた。
ナーディアがこの街に行こうと言ったせいで、皆を巻き込んでいる。
「侯爵の迎えが来て、すごく嬉しくって。
怖かったという思いと同時に、私も役にたった、出来る事があった、って嬉しかったのです」
イレーヌは笑顔を見せる。
「未来の王妃、それが私のとってのナーディア様でした。
お茶会で招待しあい、華やかなお菓子とお茶、社交の会話。それが私達が友人と呼ぶものでした」
それが貴族の令嬢の友人関係だ。
「王太子殿下に女性関係があっても、凛としているのがナーディア様だったのです。
けれど、王都の下町の河原で石を集めていると噂が立ち、王太子殿下の恋人たちが、それに便乗するように悪意ある噂を流し始めても、ナーディア様は何もしなかった。
私にとってナーディア様は、もっと誰よりも気高くって、あんな女性達なんて握り潰せる人だったのに、って。
王太子の浮気ぐらいで気が触れたナーディア様は、私の見当違いだった。がっかりして、噂を肯定するような事をしてしまいました」
止まっていたイレーヌの涙が、また流れ出した。
ずっと懺悔したかったのだろう、とナーディアは静かにイレーヌの話を聞く。
「兄に激怒され父にも呆れられて、やっと自分のしたことがヴィスタル侯爵家として最悪の事だと考えることができて、兄にナーディア様に同行するように言われて少しでも報いる事ができるならとイースデン公爵家に向かったのです。
でも、ご一緒するうちにナーディア様は狂ってなどいない、噂に踊らされた自分が人として恥じねばならないとわかりました。
未来の王妃という理想像を作って、それに外れたからといって蔑むのは、兄の言う通り醜い人間でした。
ほんとうに、申し訳ありませんでした」
涙を流しながら、イレーヌは深く頭を下げる。
イースデン公爵家に来た時も偽りのない気持ちだったのだろうが、それはイースデン公爵家に対してヴィスタル侯爵家の失態という気持ちだった。だが、今はナーディア個人に対してイレーヌ自身の懺悔である。
「また様がついてる、それはもういらないって」
ナーディアは、イレーヌが過去のこととして様を付けて呼んでいるのは理解しているが、様がついているとイレーヌが従っているようで嫌なのだ。
「はい、こんな私をちゃんとした友人と認めてもらえるよう誠心誠意につとめたいです。
それと、ナーディアが何故こんなことをしているのかはわかりませんが、必要なことなのだろうと思ってます」
「わけわかんないのに、ダルトン子爵相手に話を合わせて時間稼ぎを頑張ったの?」
クスクス笑いながらナーディアが言うから、イレーヌも笑みを浮かべた。
「はい、タブン、侯爵も公子もわかってない気がします」
「ダルトン子爵の悪事を見つける為に、ここに来たの。絶対に許してはいけない人なの」
ナーディアは、河原で石を並べていたテトの小さな手を思いだす。
「ダルトン子爵は、なんの咎もない人間を殺したの、なのにのうのうと暮らしているの」
アーニデヒルトは無実なのに罪を被せられ、処刑された。首は半分切れたのかもしれない。
竜化しても命を繋ぐことはできず、時空を超えてたどり着いた河原で砕け散った。
テトもアーニデヒルトも悪意をもって殺された。
コンコンと扉をノックする音がして、エルフレッドが夕食に呼びに来た。
ナーディアとイレーヌが
座っていたベッドから立ち上がると、すかさずナーディアがイレーヌの手を取る。
「ナーディア?」
「なんか、こんな気分」
二人で顔を見合って笑いあった。
「そうね、そんな気分ね」
読んでくださり、ありがとうございました。
イレーヌは、子爵を引き留めてエルフレッドとユークリッドが探索する時間を稼げたことで自信がつき、ナーディアに正直な気持ちを伝える勇気がもてました。
勇気をだすのは怖いけど、ちょっとしたことで出来るのかもしれません。




