48 ダルトン子爵の罪
エルフレッドとユークリッドは、身を屈めながら狭い道を歩く。
そこは長い年月、誰も使った形跡がないと思える隠し通路だった。
カビ臭、蜘蛛の巣、堆積した埃に足跡が残っていく。
「ダルトン子爵が建てたのではなく、古い屋敷を買ったのだろうな。きっと、ダルトン子爵もこの道を知らないんじゃないか?」
顔にかかった蜘蛛の巣を払いながら、ユークリッドが小声で言う。
鉱物学者であるユークリッドは古い炭鉱などに入坑するので慣れたものだが、エルフレッドは公爵子息として様々な経験をしても、こんなことは論外である。気持ち悪さと戦いながら、頷くので精一杯だ。
持ち主も知らないだろう抜け道を、ナーディアはどうやって知ったのだろう。
大きな疑問が残るが、今の二人は前に進むのがやっとである。
壁の向こうから人の声、機械の音が聞こえて、二人は息を潜めて、細心の注意を払いながら動く。
やがて静かな部屋にたどり着き、そっと通路の扉を少し開けて様子を確認する。
人はいないようだとわかり、ゆっくり音をたてずに扉を開く。
そこは壁に作りつけられた大きな鏡だった。
顔出し周りを確認し、身体を出す。
平民達が攫われて集められている、とのことだがすぐに助け出せるとは思っていない。
平民達を攫って、一番考えられるのは人身売買である。
我が国では貴族と平民の差は大きいが、他国では奴隷制度のある国もあり、平民は商品として扱われるのだ。
ダルトン子爵家は急激に資産を増やした新興貴族である。他国との貿易で財を成しているが、そこに人身売買であれば国を裏切る行為である。
今回は、証拠を探し出すことに重点をおいている。
売買の証文、契約書、なにかしら隠してあるはずだ。
部屋に入って二人は、部屋に充満するインクの臭いに鼻を抑えた。
金属製のインクを使っている匂いだ。
鉱物学者のユークリッドの得意分野である。身体にいい臭いではない。
そして、薄暗い部屋に目が慣れると、驚きのあまり、声を抑えるのがやっとであった。
印刷したての紙幣が並んでいた。
ダルトン子爵が平民を集めていたのは、偽紙幣を作るためだ。
この金属のインクでは、身体に害を起こし命の危険すらあるだろう。
地方から平民を攫っては、補充していたということか。
これは、ダルトン子爵一人ではないだろう。
エルフレッドとユークリッドは顔を合わせた。
言葉にしなくても、同じ事を思っているのが確認できる。
人の気配がして、話し声が近づいてくる。
二人は身を翻し、隠し通路に戻ると扉となっている鏡を閉じる。
これは軍隊が必要だ。
偽紙幣の証拠と印刷機の押収。
攫われた平民の確保と保護。
それを一度にしないと、きっと証拠を消して逃げられる。
コレほどのことを、何の準備もなくしているはずはない。
来た道を慎重に引き返しながら、事の重大さに頭を抱えた。
ナーディアは、どこまで知っているのだろう?
そして、どこでコレを知ったのだ?




