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45 和解

馬車は少し休憩して出発した。

ナーディアはイレーヌが逃げ帰ると思っていたが、イレーヌは青い顔をして馬車に乗っていた。


姪と同じ年頃の令嬢となると、ユークリッドにとっては娘と呼べるような年齢だ。年長者という意味でも、ユークリッドはイレーヌを気にかけていた。

それは、ナーディアやエルフレッドも分かっていたし、イレーヌ自身が感じていた。


ユークリッドは興味のない事には動かないが、無暗に(とが)るわけではない。

「辛かったら言うんだよ。いつでも馬車を停めるから」


「ありがとうございます」

イレーヌは安堵したように微笑んだが、その日に宿を取る街まで音を上げることはなかった。


宿では、ナーディアとイレーヌが同室、エルフレッドとユークリッドが同室になった。

ナーディアはガナッシュの街では貴族用に豪華な部屋に泊まっていたが、道中では街の宿に泊まった経験があるが、イレーヌは初めてのことに戸惑うばかりだ。

それでも、イレーヌは自分の荷物とナーディアの荷物を整理しようとしている。侍女の仕事をまねているようだ。


「イレーヌ、自分の分は自分で出来るわ」

ナーディアは(ほだ)される訳ではないが、イレーヌはかつての友人である。それに侯爵令嬢にそんなことをさせようと思わない。


「ナーディア様は公爵令嬢です、これが正しい関係なのです。私がうぬぼれていたんです」

それは対等になったように、公爵令嬢を批判して貶したことを言っているのだろう。


「どうして、あんな事を言ったの?」

噂が広まった一因は、イレーヌにもある。イレーヌが噂に同調したことで、信憑性が高まったのだ。


「私にも、わかりません。ナーディア様は王太子殿下の婚約者で、イースデン公爵令嬢で、イースデン公爵家に反感を煽るような事をしてはいけないと分かっていたのに」

パタンとトランクの蓋を閉めて、イレーヌは取り出した洗面具を横に置く。

「ナーディア様が気が狂ったって話を聞いて、そんな事ないって分かっても、そうかもって思ってしまったからかも。婚約者が浮気者なのは、王太子殿下だけじゃありません」

気が狂った気持ちがわかる気がして。

イレーヌの婚約者も懇意にしている女性がいるのだ。

ナーディアが河原で石を集めている噂を聞いて、ナーディアは逃げたと思った。

負けて気が狂ったと思った。


「そう・・・」

アーニデヒルトの夫である王もそうだった。


「お兄様は大丈夫ですよ。 浮気は醜いって言ってますから。

それに、自分にも他人にも厳しい人だし」

イレーヌはアルチュールを庇うように言う。


「アルチュールは、昔からああなの?」

ナーディアの言わんとしていることをイレーヌはわかる。

「はい、私が覚えている限り、自意識が高く、妥協を許さない兄でした」

イレーヌが我慢強いのが、アルチュールに鍛えられたからだと思うと、ナーディアはおかしくなってきた。


「ナーディア様は、やめてちょうだい。

ナーディアと呼んで」

イレーヌがアルチュールに言われたからだとはいえ、真摯に反省しているのが分かって、ナーディアは態度を軟化させる。


「はい、ナーディア」

イレーヌは嬉しそうに笑った。



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