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44 イレーヌの同行

エルフレッドとユークリッドの反応は好意的なものだった。

「ナーディアが女性一人というのは、心配してたのだ。話相手になる女性がいた方がいいだろう」


イレーヌは他にも同行者がいることに驚いたが、名前を聞いて恐ろしくなった。

「ナーディア様が療養に行くのをお手伝いすると聞いていたのですが・・」

ナーディアの兄はともかく、トレファン侯爵が同行するというのは只事ではないと想像できた。

この旅には、学者肌で社交も最低限の侯爵家当主が興味を持つ事があるという事だ。


「そうとも言うかな。僕からヴィスタル侯爵には話をするから、無理して一緒に来なくっていいよ」

エルフレッドは、イレーヌがヴィスタル侯爵から(しか)りを受けないようにすると言う。


イレーヌは、フルフルと首を横に振った。

「兄からは『お前の浅はかさが恥ずかしい。ナーディアの盾ぐらいにはなるだろうから、勉強してこい』と言われて、父も擁護(ようご)してくれませんでした」

母だけは(かば)ってくれたが、その母を父は(おろか)か者と叱っていた。

言われた時は意味が分からなかったが、きっと危険があるのだ。だから盾になれ、と兄は言ったのだと理解する。

ものすごく怖い、けれどここで屋敷に戻れば父にも兄にも見捨てられる。

「どうかご一緒させてください」

肩を震わせたイレーヌが顔を上げた。


「アルチュールは身内にも厳しいのね」

ナーディアはアルチュールが妹に厳しい言葉を言う場面が想像できて、おかしくなってきた。

自分はいつの間にか、アルチュールに感化されているのかもしれない。

王太子とは長い婚約期間だったが、相手の言動を想像することがなかった。


イレーヌとナーディアの様子を見ていて、エルフレッドは思考を巡らせていた。

我が妹はいつからこんなになった?

以前は、イレーヌ嬢と同じように父や兄に従い、大人しい令嬢だったはずだ。

父のイースデン公爵からの手紙に書かれていた、ガナッシュの港街での件は驚きを通り越して信じられなかった。

父が王太子との婚約解消を了承した時も驚いたが、それ以上だった。

久しぶりに妹に会うと、生命力にあふれ、危険な事に自ら関わろうとしている。それも平民のために。


エルフレッドは、ナーディアが夢の中とはいえ、アーニデヒルトの中でギロチンによる処刑を経験しているとは知る術もない。

殺される記憶の恐怖と痛みは、ナーディアを変えるに十分なものだった。


「すぐにでも旅立ちたいのだけど、大丈夫かしら?」

ナーディアが確認したのはイレーヌだけではない、エルフレッドとユークリッドもである。

「はい」

返事をしたのはイレーヌだけだが、エルフレッドとユークリッドも準備はできていた。




ほどなくして、4人を乗せた馬車は数名の護衛に守られて出発した。

もちろん、馬車の中で会話は少ない。

時々、エルフレッドとユークリッドが資料の確認をしているぐらいである。

それが、ナーディアには平気だが、イレーヌにはいたたまれないものがある。どんどん、顔色が悪くなって、気がついたのは向かいに座るユークリッドだ。


「少し馬車を止めてくれ。休憩を取ろう」


それでエルフレッドも気がついたが、危険な場所に行くと(おび)えるのが普通の令嬢だよな、と思うのだ。

向かいに座る妹は、まるで知らない人間だ。

妹がここまで変わる原因が、王太子しか思いつかない。父も婚約解消を了承するはずだ、と納得もするのだった。


馬車は街道から外れて、森の入り口で停まった。

先に馬車を降りたユークリッドが手を差し出すも、それを受ける余裕もなく馬車を飛び降りたイレーヌが森の中に入って行く。

それを護衛の一人が追って行く。人に見られたくなくって森に入っただろうが、すぐに護衛に追いつかれた。

護衛がつく生活に慣れているイレーヌも、木陰で吐いているのを見られてさらに気力が落ちた。

こんなことで吐いていては足手まといでしかない、というのをイレーヌも分かっていて辛かった。


読んでくださり、ありがとうございました。

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