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43 予期せぬ来客

「お嬢様、お客様がいらしてます」

伯父と兄に囲まれて取り込み中に、家令が来客を告げた。


今日は来客予定はない。それどころか、今日はグランデの街へ出発予定である。

家令を無視するわけにもいかず、客が待っているという応接室に向かった。

他家を訪れるには前もって予定があったり、先触れがあるのが普通であり、マナーである。

「直接訪ねて来るなんて、どなたなの?」

家令が呼びに来たという事は、父か母が容認した相手なのだろう。


「イレーヌ・ヴィスタル様です」


その名前を聞いて、ナーディアは眉をひそめる。

アルチュールの妹で、ナーディアの友人だった令嬢だ。

ナーディアに気が触れたと噂が出ると、掌を返したようにナーディアの悪口を言い始めたのだった。

会いたい相手ではないが、アルチュールとの婚約が確定である以上、会わないという選択はない。


「お待たせしました」

ナーディアが覚悟を決めて入室すると、イレーヌはソファから立ち上がって、深く頭を下げた。

「大変、申し訳ありませんでした。噂をうのみにして、加担するような事をしました」

言いながらイレーヌは泣いている。


こんなことは想像してなかった、とナーディアはイレーヌの向かいのソファに座る。

「どうぞ、お座りになって」


「いえ、兄にもきつく言われました。許されると思うな、醜い貴族の代表だと」

握りしめた(こぶし)が震えている。

侯爵令嬢という高位貴族として、謝る経験などなかったはずだ。


社交という貴族の文化からしてみれば、王太子の婚約者で公爵令嬢という最上位の貴族が奇怪な行動をしているというのは、悪評として言いたいことなのだろう。

自分より上の位の人間を(さげす)めるのだ。目上の公爵令嬢であっても、大勢であれば(けな)しても罪悪感などなく、真実かどうかなど関係なかったのかもしれない。


アルチュールは、それを醜いと言ったのだろう。

アルチュールが徹底的に妹を(ののし)ったのが想像出来る。

ヴィスタル侯爵もアルチュールがイースデン公爵令嬢と婚約するうえで、イレーヌを庇う事はなかったに違いない。

事の顛末(てんまつ)をどうしようか、とナーディアは頭を抱えた。

ナーディアにとってイレーヌはもう友人でもないが、婚約者になる男の妹である。


「お兄様から、ナーディア様に同行して真実を見てくるように言われてます」

アルチュールもナーディアがグランデの街に行くのを知っている。だから、今朝あわてて前触れもなくイレーヌを送りだしたのだろう。


「足手まといです。 そんな豪華な貴族らしいドレスなんて目立って仕方ありません。

ドレスだって一人で脱ぎ気できないでしょうし、体力もないでしょう」

絶対に断るつもりのナーディアであるが、イレーヌも引き下がらない。

「すぐに着替えます。 お兄様に言われて、自分がどんなに恥ずかしい事をしていたか気がついたの。

ナーディア様が傷つかないはずないのに」


たしかに今回も兄と伯父と護衛という男ばかりに中に、ナーディア一人が女性というのも不都合が多い。

だが、貴族令嬢など何の役にも立たない。

侍女やメイドを連れて行く方が、ずっと役に立つ。

けれど、前回も彼女達を連れて行かなかったのは、アーニデヒルトのことがあるからだ。


親戚になるからアーニデヒルトを気づかれても、秘密を守らせるのも見張るのもいいかもしれない。

「はぁ」

ナーディアは深いため息をついた。

「アルチュールの事は信用している」

ガナッシュの港町で共闘したことで、連帯感もある。 ただ、俺様なところは嫌いだが、矯正するつもりだ。


「アルチュールからの推薦ということで、受け入れましょう。

他にもメンバーがいるので紹介するわ」

ナーディアは部屋に控えていた侍従に、エルフレッドとユークリッド・トレファン侯爵を呼ぶように指示をした。


読んでいただき、ありがとうございました。

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