42 両親の説得
ナーディアはアーニデヒルトのことは伏せて、ダルトン子爵の馬車をつけたこと、平民が囚われていることを話した。
「我が家の護衛が馬車をつけたとして、どうやって建物の中に囚われている人間まで分かったのだ?」
父親のゼグウェイは、ガナッシュの港街でナーディアとアルチュールが、護衛の力を借りたとしても代官の横領発覚と証拠品の没収というありえないことを成し遂げたのも、驚きを通り越して不思議でさえある。
「近いうちに話せると思いますが、今は不確定で話せません」
アーニデヒルトの力が不確定な今、内務大臣である父親に話す時期にはなっていない、とナーディアは思うのだ。いつまでも秘密にしていられないが、もう少し石が集まって、アーニデヒルトの力がどんなものか分かってからにしたい。
「あの石が関係しているのか?」
ゼグウェイが尋ねれば、ナーディアは頷く。
「そうか」
今は聞いても答えないとわかって、ゼグウェイは理由は後にしようと思う。
「だが、ナーディアがそこまでする必要はあるまい。民を守るのは国の仕事だ」
「捕らえられている人達も助けられたらいいとは思う。けれど、私はダルトン子爵を引き摺り降ろしたいの。
河原で石集めで親しくしていた平民の子供を、ダルトン子爵は馬車で轢き殺したの。
何の咎もなく無抵抗の子供を。
イースデン公爵家の娘として、それを許すことはできない。
他人を助けるためじゃない、イースデン公爵令嬢が目をかけていた子供を殺されたことの報復のためよ」
ゼグウェイも護衛から子供が殺されたことは聞いていたので、イースデン公爵家の矜持は理解できる。
「公爵もナーディアの集めている石は、特別な石だと思っているのね?」
それまで、黙って聞いていた母親のロザンヌが口を開いた。
ロザンヌには石が集まって引っ付くのを見せていないし、港街での代官の横領のことも知らせていない。
「ガナッシュの街でも、ナーディアは危険な事をしたのね?」
ロザンヌは立ちあがると、ナーディアの横に来て手を取った。
「ガナッシュに静養に行くだけでもとても心配したわ。しかも侍女もメイドも連れずに、ヴィスタル侯子と一緒だなんて、許可した公爵が信じられなかったわ。
そして今度はグランデの街。貴族令嬢としてあるまじき事をしょうとしているのよ」
「でも、もう自分で考えて、行動することが出来るのね?
王太子殿下の婚約者だったのは、ついこの前だったのに、あの頃とはとても変わったわ」
ロザンヌはゼグウェイに振りむいた。
「公爵、ナーディアが変わったのは、王太子殿下との婚約解消が原因だけではないと思うの。
好きにさせてあげたいわ」
ゼグウェイはロザンヌに言われは、許可するしかない。
「わかった、理由は今は聞くまい。
だが、護衛は増やすぞ。ナーディアの安全が第一だ。
三日待て、こちらの準備もある」
三日後の朝、イースデン公爵家のサロンにいたのは、ナーディアの兄であるエルフレッド・イースデン公子、ロザンヌの兄であるユークリッド・トレファン侯爵の二人だった。
ナーディアを心配した公爵にエルフレッドは呼び戻され、ユークリッドはロザンヌに懇願されたのだった。
「お兄様と伯父様、どうしてここに?」
ナーディアが驚くのも当然である。
エルフレッドは留学中だし、ユークリッドは侯爵家当主として仕事がある。
「父上から連絡が来てね、面白そうな事になっているじゃないか」
エルフレッドが両手をあげておどける。
「僕も姪が心配だからね。大人が付いて行くべきだ」
ユークリッドは独身なので身軽に動けて、侯爵という肩書が緊急時の決定権を持つ。
「ありがとうございます」
一人で行くのは不安だった。 やめなさい、と言われることなく心配してくれる。
ナーディアが笑むと涙が零れ落ちた。
「嬉しくって」
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