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4 離れる心

その後も眠る気にはなれずに、窓から朝陽が昇るのを見た。

だんだんとまわりを明るくしながら日が昇る。

暗闇がオレンジ色に染まるようだ。

朝の澄んだ空気が光を運んでくるようで、心が落ち着いてくる。

「ああ、綺麗だわ」

誰に聞かせるわけでもなく、言葉がもれる。

この朝陽は、ずっとずっと前から同じことを繰り返してきた。私が王太子の婚約者でなくなっても、朝陽が昇らないことはない。

そうなっても、きっとまた、朝陽を見て綺麗と感じる自分でいたい。


涙が一滴(ひとしずく)頬をつたう。


あの夢を見なければ、きっとこんな風には考えなかった。公爵家の娘として当然のこととして教育を受けてきたし、婚約者として王太子に好意も信頼もあった。

婚約者が愛人を作っても、自分は正妃になるのだという矜持(きょうじ)があったが、それが愚かな思い込みと考える事ができた。


朝陽が部屋を照らすと、その光が冷えた部屋を照らし温めていく。


たとえ結婚をしても、以前のように婚約者と共に夢見て同じ道を歩む夫婦になれない事は分かっている。

国を背負い、二人で分け合い、豊かな国を夢見て語った幼き日。その思い出が、結婚すれば元に戻るなどと夢見てしまった。あの時のまま私の時は止まっていたけれど、婚約者の心が移ってしまった事実を認めたくなかっただけかもしれない。


お互いが歩み寄る気持ちがないとダメなのだ。

なにより、あの夢のように冤罪をかけられてはかなわない。

結婚前から愛人のいるような男なんて、問題外である。

公爵家の娘として婚約は当然と受け入れたけれど、愛人から奪い返そうという気合もないのは、それほど好きではないのだと気がついた。


「さっきから同じ考えがグルグルしてるみたい。仕方ないわよ、ナーデイア。長い間、婚約者であったのだから」

独り言で、自分を慰めるような言葉で決心しようとする。

前に進む勇気をください、と願う。


毎日同じように陽は昇る。だけど、光の強さ、時間のズレ、雲の動き、同じなんてない。変わらないものなんてないのかも。 変わらないと思っているだけで、変えられるはずなのだわ。


なんだ、殿下と結婚しなくてもどうってことないわ。結婚しなくともまた陽は昇るし、死ぬわけじゃない。


婚約者としての年月が無駄になったのが少しだけ悔しい。バカみたいだと、腹が立ってくる。


婚約者を降りれば、公爵家に(とが)がかかるかもしれない。

「そうよ、私が行方不明になればいいのよ。

これからは、平民として生きて、石探しをするわ!」

そうと決まれば、とクローゼットを開けて質素な服を取り出すが、自力で着られない。

貴族の服はメイドが着せることを基本としているので、デザイン重視。

着るにはパニエでボリュームを出し、背中に一列に並んだ光沢のある貝ボタンを留めなければならない。

上の2個のボタンを留めるのは諦めて、大きなバッグを取り出す。


公爵令嬢の自分に生活能力がない自覚はある。

冒険小説では、宝石を売ってお金を得ていた。

それを真似ようとして、アクセサリーをポンポンとバッグに入れていく。

どこで売るとか、売り方もわからないのに、とりあえず宝石の大きなアクセサリーを選んでいれる。


絶対にあの王太子と結婚するのはイヤなのだ。

さっきまで悩んでいたくせに、結論を出すと女はあっさりしているものである。

吹っ切れると強いものだ。結婚しないために行動するのを躊躇(ちゅうちょ)しない。


朝が早くともバタバタとしていれば、メイドに気が付かれないはずがない。

「お嬢様、何をなされているんですか?!」

着崩れたドレス、カバンにぐちゃぐちゃに荷物を詰め込んでいるナーデイアを見たメイドが叫んだ。その声に他の使用人も気づき、公爵を呼びに走った。


「家を出ていこうと思っているの」

にっこり微笑むナーデイアに、駆けつけた公爵と公爵夫人は言葉をなくした。


「あんな浮気者の王太子殿下と結婚はしたくなのです。

公爵家に迷惑にならないように出ていきます。どうか行方不明ということで、婚約は自然消滅? 破談? でよろしくお願いします」

これ以上ない笑顔でナーデイアは両親に笑顔を向けた。




誤字報告ありがとうございます。読み直して投稿しているのですが、見落としがあるのを教えてくださり感謝しています。


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