39 縮まる距離
おかしい。
ナーディアはアルチュールをこっそり見た。
こっそり見たつもりだが、アルチュールには気づかれている。
アルチュールの性格を矯正しようとしたのに、今日は悪いところが見当たらない。船では他の人の視線から守ってくれたし、手紙のことだって紳士的だ。
なんだか、出鼻をくじかれた感じである。
「こちらの手紙は宰相からの返事だ。宰相も放火があった日もナーディア嬢がここにいたことを証言してくれている。イースデン公爵だけでなく、宰相が証言していることで、王も王太子を庇う事は出来ないようだ。
それどころか、横領の裏帳簿を送ったことで、ナーディア嬢は僕の協力者となっているから、気狂いはふりだろう、と思われているようだ」
アルチュールは宰相の手紙をナーディアに見せる。隠しても無駄だ、ナーディアがアーニデヒルトに願えば内容など筒抜けになる。
「うふふ、私が河原で石を集めているからと気狂いと言ったのは周りだわ。
周りの人間と違うことをしたからと言って、尋常じゃない、気が狂っていると噂したのは、医者でも私本人でもない、その他大勢の人達だわ」
「僕もその噂を聞いて、河原に見に行ったんだ。我が家での事故の怪我が原因かもしれない、と思って。
僕達は貴族令嬢はこうあるべきと、固定観念で狭い考えだったと反省している」
アルチュールも今ならわかる。ナーディアの石集めは必要なことだったが、事情を知らない周りから見れば異様な行動だった。
ましてや、婚約者である王太子が女性を連れ歩く様を長年見せつけられて心身共に傷ついているだろうと皆が思っていたから、なおさらである。
「私も以前は公爵家の娘として婚約者の王太子殿下を支えるべき、と思うのが当然のことだったわ。
それじゃ私が苦しいだけ、って教えてくれたのがアーニデヒルト様だったの」
夢の中で、邪魔になった妻を冤罪で処刑する姿を見せつけられた。
ああ、そうか。
アルチュールは眩しいようにナーディアを見た。
綺麗だと思ったのは、変わろうとするナーディアの姿なのだな。
「勇気をだしたね」
ナーディアは真っ赤になって横を向いた。
アルチュールはナーディアの横に来ると、顔をそむけるナーディアを覗き込む。
「ナーディアと呼んでいいかな? 僕のことはアルチュールと」
そんな麗しい顔で微笑みかけないで。性格に問題ありなくせに。
バーミリオン殿下だって、最初は優しく大事にしてくれてた。理想の王子様だったもの。ナーディアはアルチュールに懐柔されまいと、否定的に考える。
アーニデヒルトは姿を現したものの、二人の様子に沈黙を通していたが、ナーディアの言葉に思い当たる節があった。
王妃としてこうあるべき、王を支えているのは自分だと自負していた。結果、王は不貞をしてアーニデヒルトを疎ましく思っていた。
アーニデヒルトの過去を夢で見て、ナーディアが自分を変えようとしたように、アーニデヒルトもナーディアを見て変わろうとしていた。




