37 打倒、俺様ナルシスト
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ナーディアの抵抗は、バーミリオンとの婚約を解消しようとした時からすでに始まってます。
アルチュールが自分の部屋に戻ると、残されたのはナーディア。
「アーニデヒルト様」
石に呼びかけると、少し光ってアーニデヒルトが現れた。
『どうしました?』
「悔しいんです。
どうして、あそこまで言われないといけないんですか?」
あの場で言い返せなかったけど、アルチュールの言葉はきつい。
『アルチュールはきっと、ナーディアが何も言わないから同意していると思ってるわ』
「あんな人と結婚したら一生文句を言われるのよ。お父様には悪いけど、一緒に逃げて」
家に戻ってアルチュールと結婚させられるなら、逃げる。
バーミリオンとの婚約が解消できないなら、逃げようとした時から考えが変わっていない。
『私も話を聞いていて、アルチュールは自分の価値観を押し付け過ぎていると思ったわ。 だからって逃げても捕まると思う』
アーニデヒルトも前世での自分は、夫と話し合いが足りなかったと思っている。すれ違ううちに、夫には愛人ができ、愛人を重用するようになった。
もし、どこかで勇気を出して夫に進言していたら、結果は変わったのかもしれない。
『アルチュールは、何もかも自分の思い通りになってきたのでしょうね。』
侯爵家の嫡男であの美貌だ、子供の頃からちやほやされていたに違いない。
「アルチュール様の鼻をへし折ってさしあげます!」
たしかに、アルチュールの言い分も分かっているが、言い方がある。
まず、自分の思った事を言えるようにならないと。
『それで、何か案はあるの?』
アーニデヒルトに問われて、ナーディアは首を横に振る。
アルチュールは生まれもった美貌だけでなく、努力家で剣技も学業も一流になり、宰相補佐になった人間である。
自分に厳しく、他人にも厳しいのだ。
「私だって、公爵家の教育と王家の教育を受けたわ。武術はできなくても、刺繍やフラワーアレンジならアルチュール様に負けないわ」
淑女教育なら負けない、とナーディアが豪語する。
アーニデヒルトも王妃として最後を遂げたが、ナーディアと似た環境である。
しかも、地位に寄ってくる人間は多くいるが、真の友人はいないという共通点も同じである。
ナーディアはアルチュールの妹イレーヌと友人であったが、ナーディアが気が触れたと噂されると離れていった経緯がある。
アーニデヒルトは夫に裏切られて冤罪をきせられた、ナーディアは婚約者に不貞をされ婚約解消という点も似ている。
アルチュール打破、というキーワードでナーディアとアーニデヒルトの作戦会議という女子会が始まる。
『でも、アルチュールはナーディアを気に入っていると思うのよ』
「アーニデヒルト様、アルチュール様との結婚は確定事項です。あの性格と一生付き合わないといけないんですよ? 矯正が必要です」
うんうん、そうだよね、でしょ、と笑いながら、アルチュール対策を練っていく。
ささやかだけど、偽りなく本音を話せる関係の気安さと安らぎ。
それは、裏切られて長い年月を一人で過ごした悲しみも、ギロチンの恐怖と怒りも、アーニデヒルトの心の中に落ち着かせていく。
許すことはないが、もう戻ることはない過去。
そしてアルチュールに対して特効策はないが自分一人じゃない、アーニデヒルトも一緒だと思うと、ナーディアも声を出す勇気がでるような気がしてきた。
地道に抵抗していこう、と思うのだ。
『そろそろ眠ります』
薄く姿が揺れると、アーニデヒルトの姿は消えてしまった。
ナーディアもあくびをすると、そのままベッドで寝息を立て始めた。
話疲れたアーニデヒルトは夢にも出て来ず、ナーディアの眠りは深く落ちていった。




