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35 王太子の立場

王の執務室では、王太子バーミリオンがイースデン公爵からの書簡を前に拳を握りしめて、ソファに座っていた。目の前には王が座っている。

「悪手をうったな」

王にしてみれば、王太子が恋人達と別れて身の回りを綺麗にしてから、真摯(しんし)にイースデン公爵令嬢と向き合うことが再構築の一歩であると考えていたが、王太子はイースデン公爵家の権力と恋人と両方を得ようとしたと考えるしかない。

「令嬢とお前の婚約解消の後すぐに、イースデン公爵は令嬢の婚約者の候補を絞ったらしい。王家との再婚約は絶対にない、と示している」


「王家以上に相応しい家があるはずない」

バーミリオンが顔を上げれば、王の憔悴した表情と視線が合う。


「イースデン公爵家にとって、王太子妃の外戚(がいせき)というのは魅力的ではないのだ。王家と貴族間のバランスの為に動いていたが、王家を信頼するに値せずとなると、貴族にバランスが傾いてよしと考え直したという事だ」

溜息をつくようにして、王は言葉を続ける。

「イースデン公爵から、王都にいない令嬢へ罪を被せようとしたと抗議が届いている。精神が弱っているからこそ公爵令嬢には護衛が多くつけられている、放火などしようがないのだ。それをあやふやな目撃証言で軍を動かして令嬢を捕縛に向かわせるなど、無分別としか言いようがない」


「申し訳ありません」

バーミリオンは後の言葉が続かない。

イースデン公爵家は王家に慰謝料を請求したように、バーミリオンの恋人達、特に側妃と公言したルシンダの実家には高額の慰謝料を請求したことから、ルシンダに泣きつかれて焦った面もあった。

浅慮であった、自分でも思うが、上手くいけばナーディアをもう一度手に入れれたのだ。


「アルチュール・ヴィスタル、これがナーディア嬢の新しい婚約者だろう。

公表はしていないが、イースデン公爵家は隠そうとしていないから確定であろう」

アルチュール・ヴィスタルは何度も王太子の側近にと打診したが、断られた経緯がある。王にとっても扱いにくい侯爵家である。


「アルチュール・ヴィスタルがイースデン公爵令嬢を見に河原に行っている報告を受けています。ナーディアがヴィスタル侯爵家でケガをした後遺症で精神に異常をきたしたのではないか、ヴィスタル侯爵家は責任を感じているとヴィスタル侯爵令嬢が言っています。ただし、ナーディアの側にいるにはイースデン公爵が許可を出しているのでしょうが、さすがに婚約はまだでしょう」

バーミリオンも夜会でバーミリオンとナーディアの姿を見て、調べてある。アルチュールの妹の証言も得ている。


「アルチュール・ヴィスタルは宰相補佐の仕事を休暇にして、ガナッシュの港街にも、ナーディア嬢の療養に同行している」

王の元には、宰相からアルチュールが王家直轄地の代官の横領を探っていると報告が届いている。内密ゆえに王太子に話はしないが、王太子の愚行が目につく。

それに比べ、街の娘達が被害にあっていると聞いて代官屋敷に乗り込んだイースデン公爵令嬢の国に対する思いと行動に敬意を抱く。

ヴィスタル侯爵子息がイースデン公爵令嬢と行動を共にするというのは、こういうところなのだろう。


「アルチュール・ヴィスタルは自分以外に興味を持たない人間です。それは今までの言動からも察することができます」

自分は他に恋人を作ったのに、すでに婚約解消したナーディアにアルチュールが興味を持っているとは認めたくないバーミリオンである。

イースデン公爵家という魅力はあっても、ナーディア自身に魅力はない、と思いたいのだ。




読んでくださり、ありがとうございました。

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