33 アルチュールの休暇延長申請
いくら場所が分かっていても、隠されている帳簿を盗み出すのは簡単なことではない。
ましてや、公爵令嬢と侯爵子息、その護衛も貴族子息である。
忍び込むなどしたこともないし、実戦自体が経験がない。
代官の屋敷に入り込む方法を探して街で聞き込みをすると、代官が街を視察に来ると若い娘を家の中に隠すという話を聞いた。代官は、気に入った娘を一夜の伽の為に連れ去ると言うのだ。
怒ったのは、アーニデヒルトである。
『貴方達、こんな非道を許していいの!?』
アーニデヒルトは生真面目だ。まっすぐで思慮深い。
『貴方達、潜入しなさい。逃げ道も探しておくから』
イースデン公爵令嬢の放火騒動の最中の王都で、宰相にアルチュール・ヴィスタル宰相補佐官から手紙が届いた。
小隊を出したことで王太子はイースデン公爵令嬢犯人説を退くことが出来ず、イースデン公爵が令嬢が港街ガナッシュに滞在している証拠を突きつけて来たのだ。
そんな時に、ガナッシュからの手紙である。
『親愛ある宰相閣下。
僕はイースデン公爵令嬢の婚約者として、令嬢と一緒にガナッシュに滞在しています。閣下もご存知の通りガナッシュの街は度々の高波の被害で補助金が交付されておりますが、復興が進んでおらず調べたところ、補助金は途中で消えているようです。詳細を調べる為に、休暇の延長を申請します。
証拠と共に帰京できると思います。
戻るまで内密にお願いしたい。宰相室か財務部の誰かが関わっている可能性が高いからです。
アルチュール・ヴィスタル』
王都の放火騒動など知らない内容の手紙に、宰相は頭を押さえた。
内容が補助金の横領となると金額も大きく王に報告せねばならない。
イースデン公爵の証拠だけでもナーディア嬢は無実で王太子の勇み足が確定しているのに、横領事件を探っているのを捕縛しようとしたとなると、王太子が横領事件から目を反らそうとしていると思われても仕方ない。
アルチュールの婚約を初めて聞いても、イースデン公爵家とヴィスタル侯爵家の政略ということで納得ができるのであった。
宰相は王の謁見を取るべく、自ら王の執務室に向かう。
アルチュールの言う通り宰相室の関わりを疑わざるを得ないが、アルチュールは宰相自身は関りがないと考えて手紙をくれたのだろう、と思うとそれに応えねばと考えるのだった。
アルチュールがナーディアと一緒に港街に行って、二人で部屋で話していても護衛の排除に合わないのは、イースデン公爵から婚約の許可を得ているからだが、ナーディアには知らされていない。
王家からの再婚約の可能性を潰すために早急な婚約が必要だったのだが、ナーディアと王太子の婚約が解消になった直後に婚約が決まっていては、ナーディアの不貞を疑われかねないので、次の婚約を静観する期間が必要なのだ。
「僕って、何着ても似合うな」
鏡の前でポーズをとっているのはアルチュールである。
背が高いので、かかとのない靴を履いている。
反対に高いヒールの靴のナーディアと並んで、少し背が高いぐらいになるようにしてごまかすためだ。
ペールパールのドレスに、街行きの帽子のリボンは首元で結んで喉元を隠している。
アルチュールは女装してドレスを着ているのだ。
ナーディアもアルチュールも宝飾は付いていないが仕立てのいいドレスで、低位貴族か富裕層の平民の娘らしい装いをしている。
代官の目に留まり屋敷に正々堂々と連れ込まれようとしているのだ。もちろん護衛達には止められたが、宰相からの王印のある返信の手紙を見せたら協力するようになり、代官の屋敷の周りでもしもの時は踏み込む準備をして警備に徹している。
王家直轄地の代官なので、王太子の婚約者だったナーディアの顔を知っているかもしれない、とアルチュールがナーディアを念入りに化粧した。
綺麗に見せるのではなく、普通に見せるように化粧した。それだけでずいぶん雰囲気が変わる。
アルチュールは男性なのに化粧に詳しくって、ナーディアが引くぐらいであった。
読んでくださり、ありがとうございました。
いよいよ、世間知らずの高位貴族の令嬢と子息の活動開始です。




