30 ナーディアの決意
アルチュールは宰相補佐官だ。この港町の高波の被害の陳情書も目にしていた。
補助金も出ているはずだが、下町にまで回っていないらしい。
「高波の被害は2年も前だ。僕達は船を出してくれる漁船を探して下町の辺りを歩いたから知ったけど、被害にあったまま放置されている。
大通りなどの目につくところは整備されているが、それ以外の場所も補助金で工事をした報告書があがってきていた」
「え?」
ナーディアは王太子妃教育で、補助金の勉強もしていた。補助金が交付されて、使用結果の工事報告書と現状の街が違うと言っているのだとわかる。
「アルチュール様はどうしたいのですか?」
「これがヴィスタル侯爵家の領地なら、管理を任せている代官を処罰するだろうけど、王家直轄地だ。王家から派遣された代官が補助金を搾取しているというなら、面倒だね。
いろんな部署が関係してくる。
下位貴族なら、横領の罪を擦り付けられるかもしれない。だから、過去の視察でも報告があがらなかったのだろうね」
醜いね、とアルチュールは手を広げて首を横に振る。
「罪を擦り付けられるって?」
冤罪だ、とナーディアは夢で見たアーニデヒルトの処刑を想像する。
「ああ、権力のある人間にしてみれば、抵抗のできない人間に悪役をさせれば自分は安泰だからね」
処刑場に引き出され、見世物のように処刑されようとしたアーニデヒルト。
石を投げられ、罵声を浴びせられた。
王太子バーミリオンとは婚約解消をしたけれど、王家にとってイースデン公爵家は手を組めなかった権力者だ。
その権力を削りたいだろう。
「気づかれたと知った権力者は、犯人を作りたいと思うかもしれない。横領したのは代官だけでなく、その上からの指示もありえるかも」
ナーディアが呟いた言葉を聞き逃すアルチュールではない。
「さすがは、ナーディア嬢だ。そこまで気がついたとは」
アルチュールは、王太子妃教育の成果だと感心する。
そして、ナーディアのように何年も王太子妃教育を受けて、王族としての対応が身につくのに、王太子が連れているあの令嬢達が教育についていけるか疑問である。
「怖い」
冤罪をかけられると思うだけで、身体が震える。
「大丈夫ですよ、ナーディア嬢。イースデン公爵家もヴィスタル侯爵家も、簡単には貶められません」
「怖いけど、この街をこのままにしておけません」
下町を救いたいなどと思ってないけど、冤罪をかけられ、アーニデヒルトに石を投げた人々のような目で見られたくない。
アルチュールが驚きで目を見開く。
「僕の認識では、ナーディア嬢は、そうですか、と言って我関せずを貫くかと思ってました」
王宮で王太子の婚約者として見かけたナーディアは、深窓の令嬢と聞こえはいいが、王太子にノーと言わない大人しい令嬢だった。
「でも、どうすればいいのかしら?」
気持ちはあっても、方法がわからない。
公爵令嬢として知識はあっても、行動ができない。
「そうですね、僕は出来たら関わりになりたくないですね。
僕に不都合はありませんから」
アルチュールは大勢の貴族が取るだろう意見を言う。
その頃、王都では、ナーディアが港町に行っていると知らない王太子が、ナーディアに罪を捏造しようとしていた。
ナーディアと同じ色の髪の令嬢が、王都の街に火をつけようとして逃げたのだ。
『イースデン公爵令嬢、やめてください』
『イースデン公爵令嬢が火をつけようととしている!』
王太子に雇われた破落戸達が大声で叫んで、逃げる女を追いかけるという真似をして騒いだのだ。
気狂いの公女ならするかもしれない、と人々に思い込ませようとしていた。
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