29 下町の違い
イースデン公爵が手配した宿の部屋は、賓客を迎えるにふさわしい部屋だった。
カーテンと絨毯の厚さが重厚感を与え、華美でない装飾に落ち着きを感じられた。
その部屋で医師の診察を受け、ゆっくり休むと船酔いの気持ち悪さはすぐに治まった。
ナーディアはベッドから起き上がると袋から石を取り出し、掌にのせる。
海から吸い上げた小石は吸収され、少し大きくなった丸い石。
船酔いは予想外であったが、収穫は大きい。海中の石の集め方もわかった。海面に袋を出せばいいのだ。
コンコン。
ノックの音にナーディアは顔を上げる。
最小限の人数で来ているので、侍女やメイドは連れてきていないから、ナーディアは自身で扉に声をかける。
「どなた?」
扉の外には護衛が番をしているだろうから、不審者はノックさえできないと分かっている。
「僕だ。アルチュール・ヴィスタルだ」
その声に、やはりと思ってナーディアは扉を開ける。
「どうぞ」
失礼する、と部屋に入って来たアルチュールも船酔いは治まっているようだった。
アルチュールは貴公子らしく、ナーディアがソファに座るのを確認して向かいのソファに座る。
「不甲斐なくて、申し訳ない」
船酔いでなさけない姿を見せたことを恥じているのだ。
「いえ、私はもっと酷かったです。私の名誉を守る為に警護の者が距離をとったぐらいですもの。
それに、海に落ちそうになった私を、手を掴んで助けてくれましたわ」
主家の令嬢が船酔いで吐いているので、警護の騎士は見ないように距離を取っていたのだ。
ナーディアがアルチュールを庇う言葉が、アルチュールには痛い。美しくある為に弛まぬ努力をしてきたが、船酔いの自分は忘れたい嫌な記憶である。
「もう一つ、話があるんだ」
アルチュールは、警護のガビドーに調べさせた事があった。
「借りた船は、かなり古かったし、揺れが大きかったのは波が強かっただけではなく、船自体にガタが来ているからだと思って調べさせた」
「初めて乗ったから、船ってあんなに揺れるものだと思ったわ」
ナーディアは、全部の船が揺れると思っていた。
「いや、大型の客船や遊覧船は揺れは少ないんじゃないかな?
それに、漁船でもあれはひどいと思うよ」
そういながら、アルチュールは街の地図を取り出した。
「船長が要求した金額は、平民が何か月も暮らせるほどの金額なんだよ。
それを調べさせた」
「この街は、港町で高潮の被害が度々あり、街の人間の和が強い。
それは下町もだ。
ナーディア嬢も少し見ただろうけど、この街の下町の惨状はひどい。高波の被害で壊れたままの家屋も多かったろう?」
港のすぐ近くから下町は広がっていて、王都の下町と比べてもひどいものだった。
それを思い浮かべて、ナーディアは首を縦に振る。
「船長は、あの金を下町の住民で分けたようだ」
「え?」
思いもしない言葉に、ナーディアは聞き返した。
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