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28 港町の二人

石が砕けた河が流れ込む海の港町に、ナーディアとアルチュールはいた。


「船をチャーターするには、どうすればいいのかしら?」

ナーディアは海に流れた石を拾いに行きたい。

方法はわからないが、船が必要だとは思っている。潜水夫を雇えばいいのかな、ぐらいの認識である。


「うーん、僕もしたことがないな」

そう言いながらも、アルチュールにとって出来ないというのは屈辱(くつじょく)なのだ。

「宿から手配をさせよう」

いい案を思いついた。とアルチュールは逗留する宿をさがす。もちろん、事前にこの街の事は調査済である。一日しか時間はなかったが、ヴィスタル侯爵家も名家ゆえに情報網は持っている。


イースデン公爵からも、街一番の高級宿が手配されている。

そして、宿で船の手配をさせた結果、大型遊覧船の貸し切りとなった。

公爵令嬢の舟遊びである、当然の結果だった。

海面からデッキまでの高さが半端ない。しかも速度が速く、石の探索にむかないのは一目瞭然である。

「アルチュール様、私が想像していたものとは違うわ。もっと小さい船でないと・・」

ナーディアは港に停泊の漁船を指さす。


「ちょっと待ってくれ、あれは漁船で魚の臭いがあるし、危険だ」

美しい僕が魚臭いなど許せるものではない。


「大丈夫ですわ、アルチュール様はこちらでお待ちになっていて」

にっこり笑うナーディアは、絶対に譲らない。


石が集まって力が少し戻ったアーニデヒルトが頻繁に夢に出てくるのだ。処刑の場面だけでなく、幼い頃からの生い立ちも何度も見せられた。安眠妨害も(はなは)だしい。

『もっと石が集まれば、実体を持てるので夢にはこない』

とアーニデヒルトは夢の中で言ったから、ナーディアも必死である。

港に来てから、気持ちが落ち着かない。きっと石があると確信している。


ナーディアが漁民に話しかけようとして、護衛があわてた。貸船の相場も知らない面子である。

ナーディアとアルチュールだけでなく、護衛達も下級だが貴族だ。平民と交渉などしたことがない。


護衛の一人が船主を探して交渉したが、、ありえない高額で船長ごと船を借りることになった。

アルチュールもナーディアも、安いと思っているから、ずるい平民には貴族がかもにされるのだ。


船はすぐに出航したが、中型の船とはいえ漁船である。安定走行どころか、波を受けて大きく揺れる。

ナーディアもアルチュールも船酔いのために、真っ青な顔色で甲板の手摺に掴まっている。

護衛達はさすがに船酔いはないが、船の揺れが大きく、周囲を警戒するので精一杯である。

船の対応は後日、イースデン公爵家の護衛達に課題として訓練項目に入れられることになる。


船の揺れに魚の臭い。

アルチュールは挫折というものを味わっていた。

侯爵家嫡男、眉目秀麗、才能あふれる最強補佐官。

誰よりも努力をしてきたと自負しているが、乗り越えられない壁にぶつかっている。

美しい僕が人前で吐くなんてできない!

たとえ船酔いとはいえ、絶対にしたくない。


ナーディアの方は息も絶え絶えで、顔色が真っ青を通り越して白くなっている。

 

グラリ、横波を受けた船は、ナーディアの身体ごと大きく揺れた。

きゃああ、と叫ぶこともなく、ナーディアの身体が手摺から大きく乗り出す。

人間、恐怖が大きすぎると叫ぶことさえできないらしい。


この瞬間に、近くにいたアルチュールが反応してナーディアの腕を掴む。護衛もナーディアの肩を押さえて飛び出さないした。

だが勢い余って、ナーディアの胸元から首から紐でさげている袋が海面に飛び出した。


海中からいくつもの小さな石が、吸い寄せられるように袋の中に飛び込んできた。


「え?」


あまりに一瞬のことで、それを目にしてのはナーディアとすぐ近くにいるアルチュール、肩を押さえた護衛だけだった。


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