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26 ナルシストということ

ダルトン子爵の屋敷は、貴族街と商人街の間にあった。

商店やカフェがあり人通りも多い、ということはこっそり(のぞ)くというのは出来ない。

「ナーディア嬢、そのドレスでは元々偵察には不向きだろう?」

呆れたようにアルチュールが言うが、アルチュールもレースを袖口にあしらい質のいい文官スタイルだ。

「宝石もついてませんし、河原に通うようになって歩きやすいドレスにしてます。

アルチュール様こそ、華美で目立つことこのうえないですわ」

靴もヒールが太く低い。貴族令嬢が履く華奢で装飾の多い靴ではない。


ふむ、とアルチュールは通りの商店のショーウインドに映る自分の姿も見る。

「明日のための買い物と聞いていたから、こんなものだろう? まさか偵察にくるとは思ってなかった」


どこか身を隠せるところはないか、とナーディアは探し始めると護衛が周りをかためる。公爵はナーディアに自由に出かける事を許可しているが、護衛の数を増やした。アルチュールの護衛は必要ない。


偵察といっても、周りを見るだけで怪しいところを見つけられるはずもない。

ダルトン子爵邸に馬車が入って行くのを確認して、ナーディアは後ろを振り返った。後ろにいると思っていたアルチュールがいない。

何かあったのかと急いで道を戻って行くと、ショーウインドの前にアルチュールはいた。どうやら、鏡代わりにしてポーズをとっている。


「アルチュール様、何をしているのですか?」

まさか、鏡に映る自分をずっと見ていたのですか? と思いながら声をかける。


「この時間の光はいいよ。とても綺麗に映るんだ」

見て、とばかりにアルチュールは髪をかきあげたり、腰に手を当てて見せる。


「こんな所で目立つことをしないでください。それでなくても綺麗で目につくんですから」

ナーディアは、アルチュールの行動を貶しているのに、アルチュールは目を輝かせる。

「そうだろう? 僕って綺麗だからさ」

アルチュール・ヴィスタル侯爵子息、嫡男で文武に優れているのに、女性からは観賞用とされて婚約者のいない理由がこれである。


「侯子は、私の護衛ではないのですか?」

「建前はね。十分に護衛がいるから安心しているよ」

アルチュールにとって、自分自身以外に興味を持つことは少ない。その一つがナーディアである。

それでも、ナーディアの後ろを歩きながら、次々とショーウインドに映る自身の姿を横目で見ていく。


ナーディアは以前からアルチュールを知っているので今更だが、護衛達は驚いているようだ。

美しい自分が好きだから、努力は惜しまない。賢い自分が好き、強い自分が好きで人一倍の努力をしている。それがアルチュール・ヴィスタルである。

その結果が、宰相補佐官であり、護衛として通じる剣技である。


「なんだか馬車の出入りが多い家だね」

アルチュールはショーウインドに自分を映しながら、背景に映るダルトン子爵邸の出入りを見ていたのだ。


「普通の貴族の屋敷が、どれぐらいの馬車が出入りするかわからないわ」

公爵令嬢のナーディアが知っている方がおかしい。

「なんとなくそう思っただけだよ。商人が出入りの日かもしれないしね」

アルチュールも確証があったわけではない。やたらと出入りしているのが目についただけだ。


それからしばらく屋敷の周りをまわって、馬車に乗り込む。

河沿いに馬車を走らせたが、ナーディアに感じるものはなかった。



読んでいただき、ありがとうございました。

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