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24 アルチュールの決断

王太子に送った剣は、アーニデヒルトが見つけたものだった。

『あれは、この国の最初の王が持っていた剣だ』

そんないわれの物なら、王家の宝物室に納められているはずだ。どうしてこんな下町の店に並べられているのか、とナーディアは思った。

買い取り手に持ってみれば、宝飾はあるものの古い技術でくすんでいるし、刀身は()びていて重い。

これでは、宝物室から行方不明になっても、誰も気づかないまま時が経ったに違いない。


ダルトン子爵を()めようと思った時に、この刀を使おうと思った。

刀を収集している王太子ならば、古い刀に興味を持って手に持ち、塗られた毒でケガをして、ダルトン子爵邸を捜索するに違いないと考えたのだ。

毒を隠し持っているのを見つければ、さらに捜索をするだろう。

平民を(なぶ)って殺すような人間ならば、探せばいろんな悪事が見つかるはずだ、と思っていたが、ダルトン子爵邸に動きはない。


献上してから日数が立っている。王太子がダルトン子爵からの献上品を見ていないか、放置しているか、どちらにせよ王太子は役に立たないということだ。


二日後には港町に移動するので、動くとしたら明日しかない。

絶対に、テトの仇を討つ。

「王太子を使って、王家の力でダルトン子爵家を取り潰そうとしたのが失敗だったわ。時間が過ぎただけ。他力本願はダメよね」

公爵令嬢とはいえ、ナーディアにダルトン子爵を処断する力はない。だから王家を使おうとしたが、別の方法を考えないといけない。

明日はダルトン子爵邸を偵察に行こう。


袋から石を取り出し手に乗せた。

「アーニデヒルト様、ダルトン子爵をこのままにしていたら、テトやダルトン子爵に理不尽な目に合わされた人達がうかばれない。もっと被害が増えるわ。

アーニデヒルト様の欠片を集めるまで、下町の様子を知らなかった。私は知らないことが多すぎるわ」

ナーディアの言葉に反応するように、石がほんのり温かくなる。


『ナーディア』


名前を呼ばれた気がして、ナーディアは石を見つめる。

「アーニデヒルト様?」

返事はなかったが、これでいいんだよ、と背中を押された気がした。

たとえ不実な婚約者であっても、家の決めた結婚をするのだと思っていた。

抵抗すれば、それから逃れられると知った。

自分の気持ちを言っていいんだと知った。


「少しは変わったかな?」

石は温かい。

ベッドに石を持ち込んで、ナーディアは眠りについた。



翌朝、ナーディアが応接間で見たのは、迎えに来たアルチュールであった。

ロザンヌが昨日のうちに手紙を送ってあったらしい。

「おはよう、ナーディア嬢」


アルチュールが護衛するというのは、本気だったらしい。それをイースデン公爵夫人が許可しているということも。

「ヴィスタル侯子のお仕事はよろしいのですか?」

ナーディアの知る限り、ヴィスタル侯子は王都の屋敷をとりしきり、王宮に宰相補佐官の一人として出仕している。


「今は、ナーディア嬢が優先ですよ。もちろん仕事は休暇をだしてますし、両親には許可を得てます」

「イレーヌ様もご存知ですの?」

ナーディアは、アルチュールの妹でナーディアの友人でもあるイレーヌのことを聞く。

イレーヌからは、あの茶会の後、手紙が来ていない。舞踏会でナーディアの悪口を言っていたのは、イレーヌの友人達だ。


「正直に言うと、イレーヌはナーディア嬢のことを(こころ)く思っていない」

少し困った表情をしてアルチュールは言う。

「僕がナーディア嬢に係わるのを、恥さらしと言われた」

アルチュールは、ナーディアが貴族令嬢達の間では孤立していることをほのめかす。

「僕は、ナーディア嬢が気になってしかたない」

アルチュールはナーディアの手を取ると、自分の腕に絡めて玄関に向かう。

「きっと、ナーディア嬢といる方が、世界が美しいと感じれると思うんだ」


「公爵にはご挨拶を済ましている。

王太子との婚約が無くなったそうだね?」

アルチュールは笑った。



読んでいただき、ありがとうございました。

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