22 バーミリオンの作為
バーミリオンにとって、公爵令嬢で従順なナーディアが正妃であればこその恋愛であった。絶対に無くならない結婚であったはずだった。
「クソッ」
王太子であるバーミリオンの剣幕に、侍従達も距離を取って控えている。
私室に戻ったバーミリオンは、昨夜から部屋にいるルシンダを追い出し机を蹴ったからだ。
王太子の恋人達は、子爵家や男爵家の娘ばかりだ。高位貴族の令嬢はイースデン公爵家に睨まれるようなことをしない教育を受けているので、王太子になびいたりしない。
側妃にと望んだルシンダを正妃に据えたとしても、公務が出来るように教育するのに何年もかかるだろう。
条件の揃ったナーディアを婚約者に戻すのは難しいだろう。公爵の冷めた視線と、舞踏会で見たナーディアとアルチュールを思いだす。
アルチュール・ヴィスタル侯子の存在が邪魔であるが、あの自分大好きヴィスタル侯子なら、すぐにナーディアに不満をいだくだろう。
それにしても、ナーディアが河原で石を集めていると報告を受けているが、気が触れた女でもイースデン公爵家の娘だ。
ナーディアが心身に支障をきたしている、と思わせるための演技ではないか?
娘の気が触れていたら、普通は外には出さずに屋敷に閉じ込めるだろう。
嵌められた。
バーミリオンの頭に浮かんだ言葉である。
浮気をした自分に非があるのは認めるが、正妃を蔑ろにするつもりはなかった。
ルシンダを側妃にすると公言したことが失敗だった。それが、イースデン公爵の逆鱗に触れたのだろう。
王家がたかが公爵家に気を使わねばならない、というのが間違いなのだ。
「ははは」
バーミリオンから笑い声がこぼれ出る。
ナーディアは本当に気が触れればいいのだ。イースデン公爵家は娘の後始末に追われればいい。
2年の納税免除だと。
イースデン公爵家の領地を王家に献上させれば、収益は王家のものだ。
ナーディアに似せた女が街に火を点ければ、気の触れた女だからと皆が思うだろう。
そこを私が庇い正妃にすれば、イースデン公爵も娘に領地の一部を持たせて嫁がせるしかあるまい。
ナーディアは冤罪から逃れるために婚約解消を願ったが、婚約解消をしたことで王太子に罪を捏造されようとしている。
「殿下?」
侍従が大人しくなったバーミリオンを心配して声をかける。
「レイチェル・ザイドール子爵令嬢を呼んでくれないか?」
バーミリオンは、かつての恋人の一人であるレイチェルを呼ぶように侍従に指示をする。
背格好や髪の色、レイチェルはナーディアに似ているのだ。
所作などはナーディアに到底及ばないが、僅かな時間、ナーディアの振りをさせるには十分であろう。
事が事だけに協力者が必要だが、よほどの信頼がないと話せない。
いや、反対に信頼どころか面識もなく、金で何でもするという輩に依頼すればいいのではないか。
実行犯達とどこで接点を作るか、自分の正体を知られずに依頼する方法を考えて、国内の諜報機関に資料はないか、と執務室に向かうべく自室を後にした。
レイチェルが登城したのは、次の日の事である。
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