19 婚約の行方
会いたくない人間に限って、思いもよらぬ所で会うものだ。
ナーディアは母のロザンヌと馴染みの宝石商に来ていた。
買い物を終え、護衛が扉から出ようとして、外から駆け上がって来た女性とぶつかりよろけたのを護衛が支えたが、ぶつかった女性は悲鳴をあげて、僅か3段だが、入り口の階段を落ちた。
「いったあああい!!」
地面に座り込んで大声を上げている女性に、宝石商の前に停められた馬車から飛び出して来た王太子バーミリオンが駆け寄る。
「ルシンダ、どこをケガしたのだ!?」
バーミリオンはルシンダを助け起こすと、そこにナーディアがいるのに気がついたらしい。
「ナーディア! ルシンダを階段から突き落とすとは傲慢すぎる!」
「殿下、突き落としたりしていません」
護衛が扉を開けたら、護衛の対象人物が出るのは当然のことだ。駆け上がって来て、ナーディアの横を無理やり通ろうとしたのはルシンダの方である。
ナーディアが状況を説明しようとしても、王太子はナーディアが悪意があると決めつけているようだ。
「私が見てないと思って言い逃れする気か! ルシンダはこんなに痛がっているのに。
私がルシンダを側妃にすると言ったことに腹を立てているんだろう。イースデン公爵家の娘だからと、こんな恐ろしい女と結婚させられる私が哀れだよ」
王太子の声に、ナーディアの頭には冤罪という言葉が響いて血の気が引いていく。
「哀れと思うなら、結婚を無くしてしまいましょう」
ナーディアの後ろから出て来たのは、イースデン公爵夫人ロザンヌ。
バーミリオンもロザンヌがいるとは思ってなかったらしい。
「殿下は馬車に中にいて見てなかったようですが、私は全部見てました。
我家の護衛が扉を開けたら出るのが普通でしょう? それをその娘は、階段の上を見ずに駆け上がってきて、開いた扉から無理やり入ろうとして、娘にぶつかったのよ。
護衛が支えなければ、娘も落ちていたわ」
政治的配慮で娘の結婚を継続させたイースデン公爵だが、夫人の手で破棄された。
バーミリオンが瞬間を見てなかったのは事実だが、言われたままなのはプライドが許せない。
「気狂いの女など、こちらから願い下げだ!」
「浮気男と縁が切れて良かったわ」
社交界で百戦錬磨の公爵夫人である。バーミリオンが売った喧嘩を、ナーディアの代わりに買ったのはロザンヌだ。
家では物静かな母の強い姿に、ナーディアも思うところがあった。
「私は王太子殿下が嫌いです」
浮気を繰り返す婚約者に好意を持ち続ける事は難しい。
それでも、結婚するまでの事だと我慢してきたが側妃をおくと公言されて、ナーディアのささやかな報復である。
バーミリオンは苦虫を潰したような表情で、ルシンダを立ち上がらせると馬車に乗り込んだ。
「殿下、ネックレスを買ってくださるお約束でしてよね?」
ルシンダの声が聞こえたが、そのまま発車した。
ナーディアとロザンヌは顔を見合わせると、満足したように微笑んだ。
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