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17 河原にいるということ

ドン!

アルチュールはナーディアに押し返された。

「ごめんなさい。周りに疑われるようなことをしたくないの」

ナーディアは、真っ赤になって(うつむ)いていた。

「いや、僕もうかつだった」

護衛だけでなく、ここは誰が見ているかわからない。アルチュールは 自分らしくないことをした、と自覚はある。ナーディアは王太子の婚約者なのだ。


「もう、ここでは感じられない」

ナーディアの独り言のような(つぶや)きを、アルチュールは聞き逃さなかった。


「どういうこと?」

思わず聞き返してしまい、アルチュールも焦ってしまったと思うが、言ってしまった言葉を無くすことはできない。


ナーディアは一瞬理解が追い付かなかったが、独り言を聞かれたと悟った。

「今は話せないの」


「そうか。いつか話してくれる?」

最初は自家での事故でケガをさせてしまった責任感だった。でも今は、違うと気がついている。王宮での王太子の婚約者として毅然(きぜん)としていたイースデン公爵令嬢とは違う。ここにいるナーディア嬢から目が離せない。

どうして、こんな河原にいるんだろう?

噂が耳に入っているだろうに、続ける意味があるものだろうか?

「ナーディア嬢は、今までもっていたイメージと違うね」


「それはヴィスタル侯子もですわ。ご自分が汚れるのはお嫌いでしょう?」

「そうだね、僕は僕以上に綺麗な人間を見たことがない。僕が汚れるなんて許されないよね」


こういうとこが女性から一線を轢かれる理由だろうけど、美しいのは認める、とナーディアは心の中で返事をする。


「石を探しているの。今度はもっと下流を探そうと思うわ」

河原にあった石であるが、長い時間の間に、一部はヴィステン侯爵家の壁のように建設材料に使われたり、下流に流されたのではと思う。


「護衛がいるとはいえ、危険じゃないか」

アルチュールの言葉に、ナーディアが答える。


「王宮で王太子妃教育を受けて来ました。この国は豊かで屈強な軍に守られていると教わりました」

けれど、とナーディアは続ける。

「侯子の言われるように、護衛がないと貴族令嬢には危険な国なのです。

この河原に来る道も、狭い通路で据えた匂いがあるとこもあって、こういう所に住んでいる人々が国の底辺というのかもしれない。

でも、こういう人々も国をささえているのに、貴族の気まぐれで殺されてしまう。これを豊かというのですか?」


「僕もここに初めて来たときは、驚きを隠せなかったよ。話には聞いていいたけど、自分の目で見ると違った。ナーディア嬢に会いに来なければ、知らなかったことだ」

アルチュールが目についた赤茶けた石を拾って、ナーディアに渡す。


ナーディアは、その石を並べている石の後ろに置いた。

「これを分かっているナーディア嬢が王妃になれば、この国の(うれ)いも減っていくのではないか?」

アルチュールは、さらにもう一個石を置く。

ナーディアは悲しそうな表情で、首を横に振った。


「そうか・・」

そうだよな、浮気を繰り返す婚約者を見限ってもおかしくないよな。

だが王家とイースデン公爵家との政略結婚をなくすことは、簡単ではないとアルチュールも思う。

ナーディアがどんなに嫌でも、結婚は敷かれたレールなのだ。


「下流に行くのは、僕も同行していいだろうか?」

アルチュールの申し出に、ナーディアは否定する。

「ヴィスタル侯爵がお許しにならないでしょうし、侯子まで狂ったと言われますわ」


「ナーディア嬢、初めてここで夕陽を見た時、本当に綺麗だと思ったんだ。どこでも見れる夕陽なのに、ここはもっと奇麗だった」

遠くを見るようにアルチュールは言う。


私も同じ事を思った。

ナーディアはアルチュールに同意して見つめた。


読んでいただき、ありがとうございました。

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