16 姿を見たい
アルチュールは馬車寄せまでエスコートするだけでなく、イースデン公爵家までナーディアを送って行くと、ナーディアの母親のロザンヌに挨拶をして帰った。
「ヴィスタル侯子は、目の保養になるわね」
楽しそうにロザンヌが言うのが、夫人達の総意なのであろう。
それは同意するが、馬車の事故の責任感だけでここまでしてれるのは、申し訳ない気がするナーディアである。ヴィスタル侯爵家の事故はナーディアの故意であり、ケガをしたのは自業自得であるからだ。
それに、今まで王太子の恋人達の棘のある視線を浴びてきてのだ。アルチュールがエスコートした時にも、同じような視線を感じた。
「厄介だわ」
安眠と冤罪を避けるために、ナーディアは石を集めると決心したが、アルチュールは予定外のイレギュラーである。
ドレスを脱ぎ捨て化粧を落とすと、ナーディアは早々にベッドに入った。
気にしないと思っていても、自分の悪口を聞くのは疲れるものである。
本当は悪口なんて言われたくない。
噂は情報操作の一つだ。王太子がそれをするのは、影響力のある地位が有利だからだ。
冤罪をかけるに、噂で貶めておけば周りは信じやすい。
「あのギロチンは絶対にイヤ」
ナーディアは誓うように、言葉にする。
その夜は夢を見ることなく、穏やかに朝を迎えた。
朝食の席に行くと、すでに父であるイースデン公爵が席について、ナーディアを待っていた。
「まずは、食事にしよう」
すでにロザンヌから聞いているのだろう。ヴィスタル侯爵家のことも会話にでてくる。
翌日も、ナーディアは河原にいた。最初に石を見つけたところからは、ずいぶん下流になっている。
コレだ、という感覚もほとんど感じなくなってきた。石を取りつくしたのが、感覚がわからなくなったのか。
「イースデン公爵令嬢」
アルチュールがナーディアに声をかけた。
「どうしたのですか? そんなに石を並べて」
アルチュールに言われるまで気が付かなかったナーディアは、手元を見る。
小さな石が一列に並んでいた。
無意識にしていたようだ。
「テト」
名を呼ぶ声に優しさが含まれている。
「そんなに話したこともなくて、ただそこにあるだけだったの。
何も悪いことなんてしてない。あんな無残に死んでいい命なんてない」
ナーディアは、事故の時もここまで感情的ではなかったが、今になってテトがいないということを突きつけられたような気持ちである。
アルチュールは思わず手を伸ばし、ナーディアを抱きしめた。
通常のアルチュールなら、こんなことは絶対にしない。他人の涙で自分の洋服が汚れるからだ。
ナーディアは小さく震えている。
「小さな手で、いつも石を並べていたの。またあの可愛い姿を見たいわ」
それは無理だと分かっていても、言葉にせずにいられなかった。
今日の更新が遅くなり申し訳ありません。




