14 中傷
「ききまして・・」
ナーディアに聞こえてくるのは、くだらない噂話。
どこの家の当主が愛人を増やしたとか、どこの化粧品がいいとかだ。
「ナーディア様って大人しいと思っていたら、実は気が触れてました、ってことでしょ?」
「そうそう、イースデン公爵家は力があるから隠して殿下と婚約させたらしいの」
「平民街の河原に毎日行ってるそうですわ」
「まともな令嬢なら恐ろしくって行けませんわよね」
「平民の男漁りをしていると聞きましたよ?」
「まあ! 殿下に相手にされないからって」
令嬢が集まっている所から、自分の名前がでて、ナーディアは耳を傾ける。
見覚えのある令嬢はいないので、高位貴族の令嬢達ではないらしい。
反論するにもバカらしくって、ナーディアは無視をして壁際を移動する。
相手にしないが、嫌な気分にはなるのだ。
王宮の広間の窓ガラスに自分の姿が映り、アルチュールは歩く速度をゆるめる。夜のガラスは室内の光を反射し鏡のうた。少し顔の角度を変えてみたりして、歩きながら自分自身を楽しんでいる。
聞こえてくるのは、相変わらずナーディアの話である。
この中の誰一人、河原に行ったことはないのに真実のように話すな、と言いたい。
ふと目線の先にナーディアが、いるのに気がついた。
あれは、ナーディア嬢?
一人でいるようだ。まがりなりにも王太子の婚約者が一人でいるのは不用心だろう。
イースデン公爵家が娘をエスコートする人間を用意できないはずがない。何かがあるのかもしれないと思いながらも、アルチュールは急いでナーディアの所に行こうとしする。しかし人が多く、無様に急ぐ姿の自分はしたくない。
心の中で急いでいても、見かけは優雅に歩む。
そして、アルチュールの心配したように、ナーディアに男が近づいていった。
「これは、イースデン公爵令嬢。お一人とはお寂しい、私が今宵のお相手となりましょう」
言葉使いも下品で下心が丸見えである。噂を鵜呑みにして、一人でいるから男漁りに来たと思っているのかもしれない。
多少気が触れているのなら、イースデン公爵令嬢であっても遊べると思っているのかもしれない。
その声に近くにいた令嬢達が、あわててナーディアをみた。
当人の噂話をしていただけに、挨拶もせずにその場を去っていく。
公爵令嬢という高位貴族をバカにしたような態度は、ナーディアの気が触れているからと見下しているのだろう。
ナーディアは男の方をチラリと見ただけで、扇を開くと口元を隠す。
「必要ありませんわ」
「平民なんかより、ずっと楽しませてあげますよ」
ナーディアに断られても、男は諦める素振りはない。
ナーディアが無視して立ち去ろうとした時に、ナーディアの前に立ったのがアルチュールである。
「イースデン公爵令嬢はお一人ではありません。僕がエスコートを申し使っております」
お前はお呼びじゃないのだ、とアルチュールが言えば、男は分が悪くなったと引き下がっていった。
ヴィスタル侯爵子息アルチュールといえば、自分の美的感覚に劣る女性は近づけさせず、妹しかエスコートしないと知られている。
そのアルチュールがエスコートと言っても信憑性がないが、侯爵子息に歯向かっても利がないと男は引いたのだ。
だが、それを見つけた人間が他にもいる。
側妃にすると公言している令嬢を連れた王太子バーミリオンである。
「やあこれは婚約者殿、久しぶりだね。こんな所で不貞とは、王家としても見過ごせないね」
「不貞とは? 殿下のことでは?」
バーミリオンは、ナーディアが反論したのに驚いた。
いつもナーディアは、バーミリオンの言うがままで、作ったような笑顔を貼り付けていた。
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