114 アルチュールの心情
バーミリオンに向けて剣を振るったアルチュールの眼前に矢が飛んでくる。
ここは決闘場でなく、戦場だ。
高官とわかる二人に、周りの兵士が手柄目当てに矢を射ったり、剣で切り込んでくる。
「チッ」
どちらからともなく、舌打ちが聞こえ馬を翻す。
バーミリオンもアルチュールも、相手の剣がかすった傷があちこちにある。それでも退けなかったのが、継続不能と判断するしかなかった。
後方にさがってきたアルチュールを、エルフレッドが迎えて馬から降ろした。
肩で息をしているアルチュールの横腹には血が滲んでいる。
「ずいぶんやられたな」
エルフレッドがアルチュールを支えながら、医療テントに向かう。
「やはり強いよ。カッコ悪いな」
バーミリオンも無傷ではないが、剣技はあちらが上かもしれないと、アルチュールは判断する。
「君もすごいよ、文官というのが信じられないくらいだ」
エルフレッドも公爵家嫡男として文武を磨いたから、侯爵家嫡男のアルチュールが強いのも理解できる。
ただ、アルチュールの見かけと言動に皆が騙されるのだ。
医療テントは傷兵であふれていた。少なくない死者は、テントの外に安置されている。
これが戦争。
医療兵が手一杯なのをみて、エルフレッドはアルチュールを椅子に座らすと自ら治療を始めた。
「申し訳ありません」
アルチュールはエルフレッドに頭を下げる。
「私情を優先させました」
「いつかは、どこかでぶつかる。決闘の予定だったのだろう?」
エルフレッドは、アルチュールの服をめくり横腹の傷に薬を塗る。
「父から聞いている。殿下と妹は元々仲が良かった。殿下は妹を裏切るようなことをしても、妹は側にいると思っていたのかもしれないな。
だが、今は君が婚約者だ。
君が、妹をこんなに大事にしてくれることに驚いている」
「たしかに、自分でもとまどっています」
ハハハ、と治療を受けながらアルチュールは苦笑いをする。
「僕は、自分で言うのもなんですが、何でもできる子供でした。しかもこの見てくれだ。
傲慢な人間でしたよ。
自分は、知識も剣技も最高でないとならないと思ってました。それでいて、美しい自分が好きという。
努力もしましたが、他人にも求めました。
でも、ナーディアは僕の枠に入らないのです」
「留学から戻って、久しぶりに見る妹は変わっていたが、それもあるのか?」
「王太子の婚約者であった頃のイースデン公爵令嬢と違う、というのが気になった、それが始まりかもしれません」
さすがにナーディアの兄に面と向かって言うのは恥ずかしいから、アルチュールは横を向いている。
「次は腕を出して」
腹に包帯を巻き終えたエルモンドが、アルチュールの左腕を指さす。そこは腹より出血が多い。
「これは縫わないといけないが、応急処置だけしておく。医師には連絡をしておくから、順番待ちだな」
エルモンドもアルチュールも、医療テントの中の惨状をみて、優先しろなどと言えない。
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