112 戦いに向かう時
「アーニデヒルト様」
深夜になって、アーニデヒルトが姿を現した。
すでにベッドに入っていたナーディアは、体を起こしサイドランプの灯りをつける。
『久しぶりね』
アーニデヒルトの神々しい姿は変わらず、落ち着いた声が聞こえる。
「竜のお姿で現れたので、驚きました」
『その方がよかったであろう?』
石の中で全てを聞いているアーニデヒルトなりの助力だったらしい。
『民は、良くも悪くも噂に操舵される。この世界で、竜が神格化されているのを知っていたから』
「ありがとうございます。軍人達が乱入してきた混乱の中で、アーニデヒルト様のお姿に皆が戸惑い、怯んだことで、事態の収拾を早くできました」
『役に立ってよかったけど、力を使い果たしてしまって眠ってしまったから、あれからどうなったか心配だったの』
ナーディアの様子を見て安心したのだろう、アーニデヒルトが優しく微笑む。
『先日のことで、力の使い方を少し思い出したの』
ナーディアと出会うまで、長い間アーニデヒルトは眠っていたために、能力や使い方を忘れているものが多かった。
もう少し欠片が集まれば、さらに力が強くなると思える。
「起こして悪かったわ。ゆっくり休んで』
「はい、アーニデヒルト様」
アーニデヒルトの姿が消えて、ナーディアは石を枕元に置いた。
すぐに睡魔に襲われ、深い眠りに着くのだった。
デセウス王国では、アトラス王国が新王のもとに新体制ができる前に進軍する必要がある。
軍備を拡充したとはいえ、元々の国力の違いがあるからだ。
アトラス王国が混乱している今が、勝機が大きい。
デセウス王宮では客人扱いのバーミリオンであるが、アトラス王国の軍事力、要所などに精通している。
軍略会議で、バーミリオンは発言力を増やしていた。
王太子としての能力は高かったのだ。
「僕が前線に出ます」
バーミリオンには確信していることがあった。
自分が前線に出れば、ナーディアの婚約者であるアルチュール・ヴィスタルも出て来るはずだ。
決闘が延びたままになっている。
戦場が自分達の決闘場になるに違いない。
デセウス王は、会議で甥であるバーミリオンの様子を観察していた。
娘のシェラビーと一緒にいることが多いと報告が来ている。
シェラビーには婚約者がいるが、能力ではバーミリオンの方がシェラビーの婚約者より上だろう。
ただし、アトラス王国の王太子など身分が無いに等しい。
王家が交代しようとしているのだから。だが、この戦争で勝てば話は別である。
国境にデセウス軍が進軍して来たと、ユークリッドに報告が届いたのは、2週間もたたないころだった。
宰相たちも近隣諸国に警戒していたが、一番要注意の国が動いた、と思った。
王妃の背景にデセウス王国があると、誰もが確信していた。
偽造紙幣製造を王妃一人で指示するには、無理があるからである。
「デセウスは王妃を取り戻しにきたと思うか?」
ユークリッドの問いかけに、宰相は首を横に振る。
「王妃は情報源として使われていたと思われます。デセウスは、この地を取りに来たのでしょう」
「私もそう思う」
ユークリッドの言葉は、すでに王の言葉である。
読んでいただき、ありがとうございました。
バーミリオンのアルチュールへの殺意は、ナーディアへの執着の表れです。




