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110 変わっていくもの

ナーディアは王宮のイレーヌに会いに来ていた。

「それで、伯父様に捕まってしまったのね?」

だから、北の国に行こうと言ったのに、とは言葉にしない。


「私、変わろうと思っていたのに、逃げようとしてた。

結局、変わらないのだわ。トーマスを恐れていた時と同じ」

恥じるように、イレーヌは視線を彷徨(さまよ)わす。その姿が可愛くて、美人は何しても似合う、とナーディアは暢気(のんき)に構えていた。


「逃げることって、悪いことではないと思う」

アーニデヒルト様だって、逃げてればよかったのよ。でも、信じたかったのだろうな。

「それに、伯父様の幸せを願うぐらい、伯父様が好きなんでしょ?」

言っているナーディアも恥ずかしくなって、聞いているイレーヌは耳まで真っ赤だ。


二人の視線が交差して、どちらからともなく笑いだした。

「伯父様の恋愛事情なんて、言うのも恥ずかしいわね」

「それを言えば、兄の恋愛事情もでしてよ」


「以前の私達って、お茶会でどんな話をしてたかしら?」

頬に人差し指を当てて考える振りのナーディアに対して、イレーヌは口元に手を当てている。

「ドレスの褒め合い?お気に入りの詩の朗読?」

それも楽しかったけれど、もう遠い昔のようである。


「お兄様が変わったのは、ナーディアに感化されたのだと思うわ。

出仕前に髪に衣装、手入れにたっぷり時間をかけ、美しく見える歩く姿にまで気づかっていたのですよ。

その兄が僅かな時間でもナーディアに会うために、髪振り乱して騎乗するのでしょう」


「その点では、イレーヌはもっと自信を持つべきよ。

社交嫌いで、研究中心で国内にとどまらない伯父様が、王を引き受けたのだから。

それに、お父様たちがいろいろ準備をしていたのには驚きましたわ」


王宮の中は軟禁されている王、滞っている執務。重鎮たちの会議。

男達は国の建て直しに、不眠不休で奔走している。


王家付きの使用人達は、先行き不明で機能していない。それを采配するのが女性であるナーディアとイレーヌの役目であるが、それは国の基盤が確定してからだと理解している。

なので、ナーディアとイレーヌは、お茶菓子もないお茶をしている。イレーヌとナーディアが交互にお茶を淹れているのだ。


「ルシンダ・コーフェント嬢は何をしたかったの?」

「襲われた私からしても、訳が分かりません」

短刀を用意するぐらい計画的だったのだ。


ナーディアにとって、彼女にいいイメージがない。浮気者の王太子が一番悪いのは分かっているが、王太子の横で勝ち誇ったような彼女の視線。

「バーミリオン殿下は婚約がなくなって、浮気している場合じゃないと分かったようだから、彼女は焦っていたのでしょう。自分の立ち位置がいかにもろいか」


「それは、殿下とルシンダ嬢との間にも信頼関係ができてなかったということですわ」

イレーヌの言葉が、ストンとナーディアの中に落ちる。


「うふふ、ざまぁみろ、ってことね。

婚約解消にいたるまで苦しかったし、悩んだわ。その原因の二人が幸せにならなくって喜ぶ私は、いい人間じゃないってことかしら?」


「ナーディア、私も同じ気持ちです。いい人間じゃないのが楽しいですね」

ナーディアとイレーヌは紅茶のカップを上に挙げて、乾杯するようにして笑った。


次期王の婚約者に刃物を向けたルシンダが軽い刑で済まないことを、二人は知っている。

そして、それを可哀そうとは思わない。



読んでいただき、ありがとうございました。

他人の目を気にするより自分を騙さないことの大事さを、ナーディアとイレーヌは知ったのです。


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